心の家路 たったひとつの冴えないやりかた

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たったひとつの冴えないやりかた
飲まないアルコール中毒者のドライドランクな日常
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2011年04月08日(金) 原発と霊性

日本の交通事故死者数は長らく1万人/年を越えていましたが、09年は5千人を割るまでに減りました。これには安全技術の進歩や飲酒運転の厳罰化が寄与しているのでしょう。交通事故死というのは事故後24時間以内に死亡した人をカウントしています。だから救急医療の進歩によってこの24時間を生き延びる人が増えたことも死者数減少に寄与しているに違いありません。現に事故後1年以内に亡くなる人をカウントすると1万人を越えたままです。実のところ事故死はあまり減っていないのかも知れません。

自動車というのは危険なシステムです。

自動車事故は運転技術が未熟な人が起こす、と思っている人がいます。初心者に事故が多いのは事実ですが、経験走行距離と事故発生率の関係を示したグラフは懸垂線を描いています。つまり走行距離が伸びるほど事故は減っていきますが、どんなに経験を積んでもある程度以上は減りません。これは人の技量ではなく、自動車というシステム自体が危険を抱えていることを示しています。

危険と分かっていても、経済や生活のために自動車は欠かすことができません。これが自動車社会の抱えるジレンマです。そのことは社会的なコンセンサスが得られています。だからこそ、年1万人という死者を(社会的には)許容しつつ、メーカーにはより安全な車を作るように圧力がかかり、運転者には事故を減らすように(例えば飲酒運転をしないように)圧力がかかります。

これらはすべて「危険と分かっていても、欠かすことができない」というコンセンサスの上に成り立っています。これは極めて現実的な解決策です。

話が少し逸れますが、ビル・Wは「霊的(スピリチュアル)であることは、現実的であることだ」と述べており、その方針をAAの運営にも適用したことがAAの成功要因の一つとなりました。僕も「霊的であることは現実的であること」という考えには深く共感しています。この自動車に関する社会のコンセンサスも霊的なものです。

さて、今回の原発事故の背景には、原子力産業や行政が「原発ムラ」とでも言うべき閉鎖的な社会を作ってきたことが挙げられています。閉鎖的社会は外からの批判を受け付けないもので、それが必要な安全策が講じられない原因となったという指摘です。

原発ムラの人たちは、原発は絶対安全だと言い続けてきました。しかし装置産業に関わる身として、絶対安全な機械なんて人間には作れないことは断言できます。トヨタのような日本最高の企業にすら絶対安全な自動車は作れていません。「絶対安全」というほど白々しいウソはなく、そのウソは想定外の事態によってあっさり暴かれてしまいました。

元東大総長の小宮山宏という人(原発ムラ住民)が新聞のインタビューに答え、そうした原発ムラの閉鎖性が形成された原因に、原発反対派の存在を指摘しています。原発反対派の人たちもまた意固地であり、彼らは原発をゼロにするという回答以外を受け付けません。公開した情報が原発叩きのネタにしかならないのなら、どうして原発ムラの人たちが情報を公開したいと思うでしょうか。そうして情報が隠蔽され、外部からのチェックを欠いた状態で危険は温存されてきました。原発ムラの人たちが責められるべきだとするなら、原発反対派の人たちも同様に今回の事故に対する責任を感じるべきです。

原発ムラの人たちも、原発絶対反対の人たちも、等しく非現実的です。つまりどちらも霊的でないということです。原発も自動車同様に「危険だけれど受け入れざるを得ないもの」です。他の様々な技術同様に、そうした社会的コンセンサスが形成される必要があります。その上で、どうやったらこの危険なものを少しでも安全に使えるかという議論がようやく成り立ちます。

福島第一原発では、非常用のディーゼル発電機が二系統とも原子炉の海側に設置されていて、両方とも津波で破壊されました(燃料タンクも津波でさらわれた)。信じられない設計です。片方を山の上に設置するぐらい誰でも思いつきます。外部電源も二系統用意されていたのに、直近の鉄塔が倒壊したために両方失われました。どちらも原子力の問題とは言えません。原子力の専門家ばっかり集まってやっているから、こういうマヌケなことが起こるのです。しかし、そういうオープンな議論ができる下地ができていないことが背景にあります。

原発は危険なものです。そのことは現在多くの人たちが生で感じ取っています(その生々しさは交通事故で親しい人を亡くした人の感じ方と同様です)。一方で、自動車同様に原発も現在の僕らの生活に必要なものです。東京電力の原発依存度はたかだか2割ほどですが、その2/3が止まっただけでこの騒ぎです。関西電力は5割(その原発は大阪京都奈良神戸から100Km以内にあったりする)、九州や北海道でも4割です。関東では電力不足で夏のエアコン使用を遠慮しなければならず、経済活動の停滞で今年のGDPはマイナス成長になるという予測もあります。就職戦線はいままで以上の氷河期となるでしょう。僕らは原発がない生活を次第に生で感じ取りつつあります。

ビル・Wは「アルコホリズムで死ぬ人をゼロにする」という目標を掲げませんでした。なぜならそれは現実的ではないからです。そのかわり、一人でも多くのアルコホーリクを助けるという理念を掲げました。霊性とはそういうものでありましょう。

「私たちの頭が神と共に雲の上にあったとしても、両足はしっかりと大地に着いていることを、神は望んでいるのだと、私たちは信じるようになった。それこそが私たちと仲間のいるところ、私たちの活動が行われるべき場所である。それが私たちにとっての現実なのだ」(AA p.189)


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by アル中のひいらぎ |MAILHomePage


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