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たったひとつの冴えないやりかた
飲まないアルコール中毒者のドライドランクな日常
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2010年11月01日(月) コミュ力が必要? 日本精神神経科診療所協会の発行しているブックレット「にっせいしん」の第2号がアディクションの特集で、そこに斎藤学先生の文章が載っています。アディクションと境界性パーソナリティ障害、摂食障害、さらに複雑性PTSDや児童虐待までまとめて論じられています。この先生にかかるとなんでも一緒くたです。
ブックレット「にっせいしん」No.2 特集「アディクション−依存症等へのアプローチ」
http://www.japc.or.jp/pdf2/book/book2.pdf
この一緒くたというところはスルーして、別のところに注目してみます。
「現代社会は市民の平等と自由を大切にする。そうした民主主義は、個々人の「公」への奉仕ということが前提とされているのだが、その前提の基盤となるのは他者への「共感力」つまり社会性である。現代社会とは、その成員にふさわしい社会性を身につけているか否かを常に審査されている社会である。この審査は年を経るごとに厳しくなり、この要件を満たせないのではないかと危惧する人々が増えている。近年、対人緊張を訴え、公の場に出ることを厭う人が増えてきたのはそのためである。BPD患者に代表されるパーソナリティ障害者やアディクト(依存症者)とは、こうした「社会的責任を免除」(ないし「社会生活から排除」)されがちな人々のことである」
つまり社会の変化が新たな病者を生み出しているというわけです。
共感力に代表される社会性が重視される変化を他でも感じます。最近の企業の採用担当者は「コミュ力」重視なのだそうです。コミュ力とはコミュニケーション能力のこと。これについて2ちゃんねるのまとめサイトを眺めていると「コミュ力って上がらなくね?」というスレッドを見つけます。共感力がなければ就職すら危うい。しかもそのコミュ力とやらは、トレーニングしても上がらないと考えている人もいるわけです。
これについて思い至るのは、アスペルガーに代表される広汎性発達障害のことです。広汎性の人は、想像力や他者への共感力を欠きます。これは生来のものなので、トレーニングしても能力そのものが伸びるわけではありません。ただ、視力の弱い人がメガネをかけるように、足の弱い人が杖を使うように、補助的な手段によって社会生活を送れるようにはできます。けれど、能力そのものが常人同等になるわけではありません。鑑別が行われず、適切なサポートもなければ、それこそ「コミュ力あがらねえ」という話で終わってしまいます。
国際競争力を確保するだけの経済効率を保つには、高い能力を持った人材ばかりを確保したい、というのが今の日本企業の置かれた状況であり、そうしなければ倒産してしまいます。何十年か前ののんびりとした経済状況であれば、コミュ力不足の人にもたくさん働く場所が与えられたでしょうし、お見合いで結婚相手も決められて家庭も成していたでしょう。そこでは少々変わり者と見なされる可能性はあったにせよ、障害者と言われることはなかったわけです。
つまり社会の変化が、トラブルを抱えた人たちをあぶりだし、彼らに病気のレッテルを張り、公的な扶助を必要とさせているのです。
もうひとつ、産経新聞の子供の虐待の記事。
虐待の「世代間伝達」 愛されなかった過去
http://sankei.jp.msn.com/affairs/crime/100413/crm1004131833018-n2.htm
「虐待は、外部が何も介入しなければほぼ確実に連鎖する。3割にとどまっているのは、多くの人が成長の過程で、外部の大人たちから自然にさまざまな援助を受けているからだ」
虐待が増えているのかどうか、という話は、発達障害が増えているのかどうかという話と同様で、昔のデータがない以上比較しようがありません。しかし虐待として数えられる数は確実に増えています。
現在では、子育てが母と子だけのプライベートなことになってしまっているわけで、そこに他者が自然に介入したり援助することが難しくなっているわけです。これが何十年か前だったら、近所や親戚との関係が濃密で、それはそれでプライバシーがなく他者の口出しが多いうっとうしい世の中だったのかもしれませんが、母親以外のいろんな人が子育てに関わって、虐待を減らす効果が存在したのではないかと思うのです。
こうしてみると、日本の国際的な経済地位の向上に代表される豊かさや、プライバシーの重視が、必ずしも良いことばかりもたらすわけではない構図が見て取れます。日本が豊かになったのはせいぜいここ何十年かであるだけに、豊かさを社会で分配するやり方がまだまだ初心者だし、プライバシーという権利が金科玉条になるのも危ういことです。
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