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たったひとつの冴えないやりかた
飲まないアルコール中毒者のドライドランクな日常
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2010年06月27日(日) 12ステップの治療成績 疫学的調査のアブストラクトを見ていると、AAは断酒にほとんど効果がない、とあったります。
「そりゃそうだろうな」と思うのです。
例えばProject MATCHでは、12週間のアルコール依存症治療の後、3ヶ月ごとに12ヶ月間追跡調査を行い、飲酒パターンに変化があったかどうか調べています。そして、認知行動療法・動機付け療法・12ステップ療法(ただしこれはAAそのものではない)のどれが有効か比べようとしたものです。結果、12ステップ療法が優れていると言える有意差は出ませんでした。
12ステップに治療効果がないと言われれば、AAメンバーはメゲるかもしれませんが、そんなに気にしたことはありません。
以前、こちらの県内でも古参のAAメンバーがこんなことを言っていました。
「病院にメッセージに行くだろう? 話をした患者の中で、退院後にAAに来るのは10人に一人さ。せっかく来た連中も、次々途中で来なくなって、残るのは10人に一人。結局助かるのは100人に一人いるかいないかだよ」
実感としてそんなものでしょう。
けれど、来なくなった人の中には、失敗を体験し「無力」を自覚して戻ってくる人もいます。そもそもAAに来なかった人も、次回の退院時にはAAに来るってこともあります。現在AAにいるメンバーのなかでも、AAの存在を知って一直線にAAに来て回復したという人は珍しい存在です。AAに来るまでさんざん回り道をして、AAに来た後もまだ回り道をして、最後にようやく助かるのが普通です。
AAは一生というスパンで結果を出すようにデザインされたプログラムであり、1年間で多くの断酒者を生み出す仕組みにはなっていません。そのかわり回復が成し遂げられれば、その後もそれが維持されると期待できます。一方、精神病院への入院治療は短期間に多くの断酒を達成させますが、その後の維持については期待薄です。
様々な治療方法を比較することは必要ですが、個々の治療法の特性を無視して条件を設定すれば、意味のある結果が出ないことだってあるわけです。
実は認知行動療法にしても、動機付け療法にしても、依存症の治療成績は惨憺たるものです(だから12ステップ療法と差が出ない)。断酒の意欲があるかどうかに関わらず短期間で断酒を達成させ、しかもそれを一生維持させる・・・そんな夢みたいな治療法があればいいのですが、残念ながらまだできていないわけです。
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