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たったひとつの冴えないやりかた
飲まないアルコール中毒者のドライドランクな日常
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2010年05月12日(水) 適者生存 いろいろな人種が混じって住んでいるアメリカでは、白人の多いミーティングもあれば、黒人の多いミーティングもあるのだそうです。町の中心部の黒人居住地帯では、当然黒人ばっかりのミーティングになり、郊外の住宅地のミーティングでは白人ばかりになります。例えば白人の人の、たまたま一番近い会場が黒人の多い会場だったりすると、そこをホームグループにはせずに、ちょっと離れていても白人の多い会場に行くようになるのだとか。
人種以外にも、職業とか、AAプログラムの解釈によって、相性の良い人たちが集まってグループを作っているのだそうで、これを「適者生存」と呼びます。
適者生存とは、進化論で「その環境に適した形態を持ったものが生き残り繁栄していく」という考え方です。
ちょっと僕の周りを見渡してみても、いろいろなAAグループがあります。
例えば僕の属しているグループは「AAとして最もオーソドックスなところを目指す」とか言っちゃってビッグブックしか使いませんし、「仲間」も大事ではあるんだけど、それより「原理」を重視し、ミーティングでも神とかハイヤーパワーという言葉が普通に出てくるし、スポンサーシップを持たないなんてあり得ねえ、という態度です。
けれど、仲間の交流こそAAの原理だと解釈しているグループだってあります(そういうグループのミーティングでは神という言葉は刺身のツマみたいなもんです)。あるいは、ステップ!ステップ!とうるさいことを言わず、ミーティングでもアルコールの話はほとんど出てこなくて、ともかく毎週のミーティングに来て酒をやめ続けることが大事なんだという気楽なグループもあります。
広く見渡せば、生活保護の人ばっかりの会場もあれば、サラリーマンばかりのところもあります。男ばっかりで汗くさい(比喩的な意味で)会場もあれば、ほとんど女性ばっかりというグループもあります。
いろんな雰囲気、いろんな特性を持った会場やグループがあり、その環境に適した人がその会場に残って、ますますその雰囲気を強めていくわけです。だから、ビギナーには「なるべくあっちこっちへ行って、自分にあったところを見つけるように」というアドバイスが必要です。
当然僕は「自分のグループのやり方が最も正しい」と思っているからこそ、そういうグループのメンバーをやっているわけですが、その一方で「AAグループのこのバリエーションがAAの魅力のひとつであり、多様性がAAの永続性を保証してくれる」とも思っているわけです。生物学をかじったことのある人ならば、均一性が脆弱性を、多様性がロバスト性を意味することを理解して頂けるでしょう。
話は変わって、僕は先日出張で韓国に初めて行ったのですが、その経験を持ってして「韓国のことがすべて分かった」つもりになったら「単なるバカ」と思われるだけでしょう。たった数日の滞在でその国の全体像を把握することはできないのですから。だから、外国の土産話を聞く人たちは、その内容が局所的なことにすぎず、その国全体の話とは限らないことを、きちんと分かっていて聞くわけです。
けれど、これがAAとなると不思議な現象が起こります。わずか一つか二つの会場に数回出席しただけの人が、AAのことをすべて理解したかのように「AAとはこうである」と説明し、聞く方もそれをAAに関する普遍的な真実であるかのように解釈します。AAについては様々な誤解が存在していますが、その多くはこうした「AA土産話」が広がった結果です。群盲象をなんとやら、というやつです。
AAメンバーの中にも、この多様性が強さであると理解しない人たちがいるのは残念なことです。
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