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たったひとつの冴えないやりかた
飲まないアルコール中毒者のドライドランクな日常
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2009年10月22日(木) 嫌悪療法 中国に暮らす人が、妙にマズいタマゴを買ってしまい、調べてみると人工的に作られた偽卵であった、という話がありました。
その偽卵ではなくて、擬卵というものがあります。こちらは食べるものではなく、小鳥に抱かせるプラスチックの丸い塊です。文鳥やカナリヤのメスは交尾しなくても無精卵を生んで暖めてしまうことがあり、それを取り上げるとまた生んでしまいます(ニワトリ状態)。そこでニセ卵を抱かせて卵を産むのを防ぐのに使います。
ヘビは飼ったことがありませんが、生卵が大好きなのだそうです。与えてやると丸飲みし、食道内の突起を使って器用に割ります。ヘビに擬卵を与えると飲み込んでも割ることができず、非常に苦労して吐き出し、もう二度とタマゴを食べようとしなくなる、という話をかなり以前に聞きました。ヘビにもそれだけの知能があるわけです。
同じ理屈をアル中さんの治療に使えないか、と考える人がいるのは当然です。
催吐薬と酒を同時に飲ませます。これを何度も繰り返せば、酒を飲む→吐き気がするという条件反射が作られるはず、という理屈です。嫌悪療法と呼ばれて広く行われた時期もありましたが、現在ではあまり行われていません。ヘビやサルなら効き目があっても、人間は条件反射以外の余計な知恵を使うので役に立たないのです。
けれど、同じような治療は現在の日本でも行われています。
アルコール病棟の入院患者に主治医が「酒を飲ましてやる」と告げます。意地悪な医者だと、患者の酒の好みを聞いてウィスキーやらビールを用意し、おまけに若い看護婦に酌をさせたりします。もちろん酒を飲ませるのが治療ではなく、事前に抗酒剤(アンタビュースやシアナマイド)を処方し、医師が観察しながら飲ませます。
抗酒剤服用後に飲酒すると、アセトアルデヒドの効果で血圧が下がり、動悸が激しく、顔面が硬直、視野は狭窄します。この場合は医者がついているから大丈夫ですが、外でやれば救急車騒ぎになります。
この「飲酒テスト」は名目としては、抗酒剤服用後の飲酒をあらかじめ実体験することで、退院後の危険を減らす目的があります。もう一つは、抗酒剤の処方量の決定のためという名目があります。抗酒剤にも副作用があるので量は少ない方がいいのですが、人によって効き方が違うので少なすぎれば効果がなくなります。
中には飲酒テストを繰り返しやる病院もあるようで、名目はともかくとして実質は嫌悪療法を試みているのだと思います。アルコール病棟に入院しても依存症が治るわけもなく、退院後にすぐ飲酒してしまう患者さんもいます。中には退院直後に酒を買い、酩酊しながら帰宅するツワモノもいます。家族としては高い金を払っての入院なのに、オトーさんが酔って帰ってきたのではたまりません。病院も苦情を避けるために嫌悪療法を試しているのでしょう。
そういう病院を経験した人の話を聞くと、どうやら数ヶ月くらいは効果がありそうな感じです。やはり人間はヘビとは違うのであります。
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