TENSEI塵語

2005年02月06日(日) 「秋の童話」のラスト

仮出所中の男がショッピングセンターで1歳半の子どもを刺し殺した
などという現実世界の異常な事件に、昨日怒りと不思議に包まれたのだが、
それ以上に、ドラマという虚構の世界の死に関心が向くとは何たることだ?
そうだ、本当は現実に起きた問題について真剣に考えるべきなのだ。
けれども私は、昨夜遅く帰ってから新聞を読んでしばし妻と議論をしたが、
その後、「秋の童話」を2話見てから寝、きょう3話見て全部見終えた。
作り物の世界に過ぎないとはいえ、
我々はドラマの人物たちと長く深いつきあいをする。
新聞に載る事件の被害者は現実の社会の中に存在していたのだけれど、
生前面識があるどころか、片鱗さえ垣間見たことのある人は1人もいない。
頭は現実社会の問題に取り組め、とワイワイ騒ぐのだけれど、
心は何日もつきあううちに他人事ではなくなってしまった
虚構の世界の登場人物に異常なほどの関心を向けてしまうのである。

ウンソは白血病で死んでしまった。
死なせないでほしかったけど、やっぱり死んでしまった。
その場面はよかった。
ジュンソにおんぶしてもらって、その背中で最期を迎えた。
ジュンソはそれを察しながらも、ウンソに明日のことを語り続けた。
ウンソの死を受け入れることができない思いが伝わってくる。

ウンソの葬儀の際、ジュンソは葬儀の始まる前に抜けて、
少年時代ウンソと過ごした思い出の地に行く。
自分なりの別れを告げたい、と、テソクにウンソの見送りを託す。
テソクが海で船に乗って、ウンソの骨の粉を海にまいているころ、
ジュンソは思い出の地で回想に耽っている。
これでどう結末をつけるつもりかな? 感動のラストは、、、?

路上にたたずむジュンソに、クラクションを鳴らしつつトラックが近づく。
盛んに鳴らし続けるのに、ジュンソはトラックを見つめて動かない。
ラストは、はね飛ばされるジュンソとその回想で終わった。
要するに、ジュンソの自殺で幕、、、というわけである。

台無しである。
ウンソなしでは生きられない、それなら、そのように展開すべきだろう。
ウンソの死後もひとりで生き続ける約束をさせるべきではないのだ。
しかし、ジュンソはウンソに約束したのである。
ジュンソは、ウンソが死んだら自分も死のうと薬を用意していた。
それをウンソに知られ、ウンソの懇願によって、生き続ける約束をしたのだ。
それは、残酷かもしれないが、究極の約束ではないのか?
この結末は、蛇足である。
つらいけれども、テソクと共に骨粉をまいて、ラストシーンにしてほしかった。


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