きょう、明日の試験の印刷を終わって、ちょっと時間があいたので、 30ページほど残っていた湯本香樹実の「ポプラの秋」を読み終えた。 つい先日「夏の庭」を読んだときには、評判ほどの感銘を受けなかったが、 こちらのは、ほとんど主人公が6、7歳の子ども時代で登場していながら、 その内面が興味深く語られていて、心の深さを感じさせられる。
父の事故死(実は、母にとっては夫の自殺)の後、 母と娘は大きなポプラの木のあるアパートに移り住む。 アパートの大家にあたる老婆は、千秋には怖くて近寄りがたい不気味な存在。 けれども、病気療養をきっかけに、おばあさんとの交流が始まる。 おばあさんは、あの世に逝くときに、この世からあの世へ手紙を運ぶことを 自分の最後の使命だと思ってるのだと、千秋に打ち明ける。 千秋は、父宛の手紙をせっせと書き始める。 父親の突然の不在、母親の虚ろな様子のせいか、 外界との交流がうまくできなくなっていた千秋も、 父への手紙を書き続けるうちに、しだいに外界とのバランスを取り戻す。 やがて母も夫宛の手紙を書き、千秋を通じておばあさんのもとに保管された。
それから18年がたち、千秋はおばあさんの葬式に出かける。 15年前に、母の再婚によってポプラ荘を出ていた。 千秋は看護婦になったが、流産と恋の終焉のために看護婦もやめ、 睡眠薬を常に携帯して、明日死のう明日死のうを励みにして生きている。 葬式に行くと、思いがけないほど大勢の人が集まっている。 みな、おばあさんに手紙を託した人たちだという。 そうして、みなおばあさんに感謝の気持ちでお別れに来ている。 おばあさんの棺は手紙でいっぱいである。 千秋は、まだ棺に納められていなかった、母の書いた手紙を読むことになる。
結末で千秋は、何か新しい生きる方向への展望を持ち始めているに違いない。 読む者にもまた、何か吹っ切れたようなさわやかな感触をもたらしてくれる。
ちなみにこの本の帯には、こんな一書店員の言葉が書かれている。 「私は、この本を売りたくて書店員になりました」(店名・氏名つき) こんな宣伝文は初めて見た。
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