TENSEI塵語

2004年06月30日(水) 「ポプラの秋」

きょう、明日の試験の印刷を終わって、ちょっと時間があいたので、
30ページほど残っていた湯本香樹実の「ポプラの秋」を読み終えた。
つい先日「夏の庭」を読んだときには、評判ほどの感銘を受けなかったが、
こちらのは、ほとんど主人公が6、7歳の子ども時代で登場していながら、
その内面が興味深く語られていて、心の深さを感じさせられる。

父の事故死(実は、母にとっては夫の自殺)の後、
母と娘は大きなポプラの木のあるアパートに移り住む。
アパートの大家にあたる老婆は、千秋には怖くて近寄りがたい不気味な存在。
けれども、病気療養をきっかけに、おばあさんとの交流が始まる。
おばあさんは、あの世に逝くときに、この世からあの世へ手紙を運ぶことを
自分の最後の使命だと思ってるのだと、千秋に打ち明ける。
千秋は、父宛の手紙をせっせと書き始める。
父親の突然の不在、母親の虚ろな様子のせいか、
外界との交流がうまくできなくなっていた千秋も、
父への手紙を書き続けるうちに、しだいに外界とのバランスを取り戻す。
やがて母も夫宛の手紙を書き、千秋を通じておばあさんのもとに保管された。

それから18年がたち、千秋はおばあさんの葬式に出かける。
15年前に、母の再婚によってポプラ荘を出ていた。
千秋は看護婦になったが、流産と恋の終焉のために看護婦もやめ、
睡眠薬を常に携帯して、明日死のう明日死のうを励みにして生きている。
葬式に行くと、思いがけないほど大勢の人が集まっている。
みな、おばあさんに手紙を託した人たちだという。
そうして、みなおばあさんに感謝の気持ちでお別れに来ている。
おばあさんの棺は手紙でいっぱいである。
千秋は、まだ棺に納められていなかった、母の書いた手紙を読むことになる。

結末で千秋は、何か新しい生きる方向への展望を持ち始めているに違いない。
読む者にもまた、何か吹っ切れたようなさわやかな感触をもたらしてくれる。

ちなみにこの本の帯には、こんな一書店員の言葉が書かれている。
「私は、この本を売りたくて書店員になりました」(店名・氏名つき)
こんな宣伝文は初めて見た。


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