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■ リーマンアイテム集
ワイシャツ
頼みます先輩。助手席で寝るのはいいんです。 残業続きでお疲れでしょうし、こうしてたまに遠方のお客さんに向かう車内で息抜きしたくなる気持ちもよく分かります。僕もできるだけスムーズな運転を心掛けてますし、先輩の好きなミヒマルのCDだってレンタルしてきました。会社を出て五分で、座席を限界まで倒して熟睡態勢に入ったって文句は言いません。 だから先輩、ひとつだけお願いしてもいいですか。 ワイシャツから透けて見えるその乳首だけ、どうにかしてくれませんか。 ガン見して事故っても、僕は責任取りませんから。
スーツ
毎朝背広を着るような男にだけはなりたくないと無頼漢を気取っていた十年前。今はスーツ姿が好きだと言う恋人のために、毎朝せっせと背広をはおる。 ううむ、予想外の展開だ。
ネクタイ
課長は結婚記念日には必ず新しいネクタイをしめてくる。毎年、奥様がプレゼントしてくれるらしい。確か結婚して十八年だから、十八本の記念ネクタイが課長のクローゼットにはぶらさっがているはずだ。 そのうち、課長がホテルでシャワーを浴びている間に「別れろ別れろ」と念をこめたネクタイは三本。すべてに念を込め終わる頃には、俺はよぼよぼの爺さんになっちまう。 だからもう課長とは別れようと思う。そして今度は俺が、新しい誰かにネクタイをプレゼントしよう。
ベルト
ベルトを外すときに鳴るカチャリという金属音、足の先から頭のてっぺんまでこの先の行為のことでいっぱいになっているはずなのに、なぜかこの音を聞くと、公務員だった父親の顔を思い出す。ごめんなさい父さん、僕はあなたが望むような息子にはなれませんでした。
腕時計
「昔使ってた腕時計、うちに置いたままだけどどうする? もし取りに来るのが嫌だったら郵送で送るけど。俺? 使うわけないじゃん。お前がいらないなら捨てるよ。あんまり過去のもんって部屋に残しておきたくないから。うん、分かった、じゃあお前のアパートに送るようにする。なに? ううん、動いてないよ、止まってる。電池変えたら大丈夫だと思うけど。結局、壊れたのは俺らの関係だけだってね。ああ、つまんないジョーク」
折りたたみ傘
スーツ姿の男二人が肩をくっつけるようにして歩いていても許されるのは、僕たちの頭上に直径五十センチの薄っぺらい布でできたシールドが張られているから。はみ出した肩が少しくらい濡れたって、水溜りで革靴が汚れたって、せっかくきめていた髪型がふにゃふにゃになったって構いません。だから神様、駅に着くまでのあと五分、どんな天気図にものっていなかった突然のこの雨を、どうかもう少しだけ僕たちの上に降らしていてください。
2007年07月17日(火)
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