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■ 悲しきクリスマス
今日は一日中クリスマス関係の仕事をしていました。毎年言ってる気がしますが、ちっとも楽しくないです。
さて、ここにきて仕事もざわざわと忙しくなってしまい、大した更新もできないので、もうかなり前に書いてあったある小説の番外編をアップします。<すでにお読みになっている方もいらっしゃるかと思いますがゴニョゴニョ…。 短いうえに、かなりショッパイ内容ですが(笑)、お暇な方はぜひどうぞ。
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「こら、暴れるなって!」 狭いバスルーム、俺はパンツ一丁という恰好で、腕の中で牙を剥くレディと戦っていた。そいつは黒い艶やかな毛と大きな瞳を持った可愛い悪魔。名前をクロエ。俺のような洟垂れ小僧には、気高い彼女を従順なペットにするのは難しい。 「おい正樹! あんたもちょっとは手伝えよ!」 さっきから俺とクロエの格闘を楽しそうに見下ろしている男に助太刀を頼むと、そいつは笑いながら俺の腕をすり抜けたクロエを恭しく抱き上げる。彼女の長い尻尾が俺の頬をピタンと叩いた。 「だから無理だって言っただろう? 猫は水が嫌いなんだよ」 「でも泥だらけで汚ねえんだもん」 俺はシャンプーで泡だらけになった両手で、正樹の手からクロエを奪い取る。クロエは不満そうにニャアと鳴いた。 ここ数日雨が降り続き、部屋の中と外を自由気ままに出入りする奔放なクロエ嬢の足はいつも泥まみれ。俺の脱ぎ捨てたシャツにも、テーブルクロスにも、ベッドのシーツにも、クロエが歩き回るところには彼女の足跡がこれ見よがしに残される。俺は決して潔癖症というわけではないのだが、洗濯したばかりのお気に入りのパンツ、それも大事な股間部分にクロエの足跡を見つけたときには、さすがの俺も大いにキレた。 「絶対洗ってやる!」そう宣言してクロエを風呂場に連れて行ったまでは良かったが、シャワーを浴びせると同時にクロエは暴れ出し、俺の腕はあっという間に彼女の爪あとだらけになってしまった。 「もう、しょうがないなぁ」 再び始まった俺の奮闘を眺めながらそう言った正樹は、着ていたシャツをおもむろに脱ぎ始めた。どうやら加勢してくれるらしい。俺と同じように下着一枚になった正樹は、男ひとりでも狭苦しいバスルームの中へ長身を屈めて入って来た。 「ほら勇、僕が抑えててあげるから早く洗って。顔とヒゲは濡らしちゃダメだよ」 「任せとけって。こら! 今度こそ大人しくしてろよクロエ」 か弱き女性一人に(レディに向かって一匹とは言えない)男二人が立ち向かうとあってはあまりにもフェアじゃない気もするけれど、今回だけは仕方ない。俺は自分の手にシャンプーを垂らすと、手早く泡立て、クロエの体を洗い始める。最初は両手両足をバタつかせ抵抗していたクロエも、ぬるま湯で濯ぐ頃になるとようやく観念したのか、あるいは案外気持ち良いと感じ始めたのか、正樹の腕の中で大人しくなっていた。 俺は濡れたクロエの尻尾の毛を軽く絞り終えると、正樹の横をすり抜けてタオルを取りに行く。まずは風呂場の外で自分の躰を拭いたあと、乾いたタオルを広げ、濡れそぼったクロエの体を包み込んでやった。正樹の腕の中で、クロエはクシュンとひとつくしゃみをした。 「やばい、風邪引いちゃうかな?」 「ドライヤーで乾かした方がいいね」 俺はクロエを正樹の手から預かると、すぐにリビングに戻りドライヤーの弱風でクロエの毛を乾かしてやった。クロエは今度こそ、本当に気持ち良さそうにされるまま体を預けてくる。徐々に乾いていくクロエの体毛からは、少し甘いシャンプーの香りがする。 しばらくすると、自分の躰を拭き終わった正樹も戻ってきた。髪がまだ少し濡れている。 「ちょっと待ってろよ、もうすぐ終わるから」 ドライヤーを吹かしながら言うと、正樹は俺と向かい合うようにしてその場に腰を下ろし、クロエの背中を確かめるようにそっと手で撫でた。 「うん、綺麗になったね。手触りが違う」 「ほらな、やっぱり洗って正解だ」 胸を張った俺を見て、正樹は可笑しそうに目を細める。そして、少しだけ首を伸ばして、俺の唇に触れるだけのキスをした。 「こら、まだ乾かしてる途中だっての」 「勇もいい匂いがする」 「いいからあんたは早く服着なよ。風邪引くぜ」 「いいよ、どうせ脱ぐんだろ?」 俺はあきれた顔をして見せる。クロエがヤキモチを妬いたのか、俺の腕の中でミャアと声を上げた。どちらに嫉妬したのかは、本人にしか分からない。 正樹が腕を伸ばし、クロエを俺の膝から床の上へ下ろす。嫌がる素振りをしてみても、正樹の肌の温もりをイヤというほど知っている俺に大した抵抗などできるはずもなく、手のひらから剥がされるようにドライヤーを取り上げられる頃には、俺は自ら進んでベッドの上へとよじ登っていた。 幸か不幸か、お互いにパンツ一枚だ。 三秒で全裸になった俺達は、馴染んだ躰を重ね合わせる。 ふと、こうなることを予想して、俺はクロエのシャンプーを思いついたのかなと後々大きな後悔になるだろう発芽を思い浮かべたのだが、押し当てられた唇から入り込んだ正樹の柔らかくて熱い舌の感触に、そんな考えもすぐに蕩けていってしまう。 気が付けば、窓を叩く雨の音が聞こえ始めていた。 抱き合う俺達を横目に、丹念に毛繕いを続けていたクロエが顔をあげたかと思うと、その雨音に誘われるようにして窓の隙間から外へと飛び出していく。 「ちょ、クロエ!」 俺の叫びも虚しく、クロエの黒い肢体はあっという間に夜の闇の中へと消えていった。 「くそ、せっかく洗ったのに意味ないじゃん」 愚痴った俺に、正樹が笑いながら口付ける。 「帰ってきたらまた洗えばいいよ」 「なんだよ、ここまでの俺の努力は水の泡ってこと?」 正樹は不満たらたらな俺を黙らせるように、ぐっと腰を挿し入れた。 「う……っ、クロエのやつ……」 あとのぼやきは、正樹からのキスと、躰の奥から湧き上がるとめどない快楽に掻き消されてしまう。こんなのも案外悪くないと思ってしまう、小さな本音を胸に隠したまま……。
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2004年10月22日(金)
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