偽記
目録過去未来


2003年03月09日(日) なりきりインチキ講師

「そうです。CDに書き込む時はこうしてこうしてこうです。あ、実際にやってみてください」
「そうですそうです。じゃ、次はですね」

今日俺は全く面識の無いおっさんにPCの操作法を教えていた。
おっさんと言うよりはお爺さんである。何故、このような状況になったか?
時間は少し遡る。

「いや〜ちょっと頼まれてくれねぇかなぁ?」
知り合いであるこの電気屋の親父はいつもながら急である。
「はい?なんです急に?」
あのね、と言うと電気屋の親父は煙草に火を点けながら話し出した。

なんでも、このオヤジのお客である某がPCで大層難儀してるそうで
どうにかしてくれと電気屋であるおっさんに助けを求めてきたのだそうだ。
所が生憎、この電気屋はパソコンなどと言う類にはからきしダメでお手上げ状態らしい。しかし、ダメだからと言ってお客である以上この頼みを無下に断る事もできずに居た時どうやら俺がPCをちとかじってる事を思い出して藁にもすがる思いでやってきたのだと言う。

「いや、ちょっと待って。俺もそんなに詳しくないよ?ましてや、人に教えるなんてほど…」
「大丈夫だろ。70過ぎの爺さんの言う事だ。そんなに難しい事じゃ無いと思う」

何を持ってそう言い切れるのか?この電気屋は?
それに、その70過ぎの爺さんでも誰でもいいけどさ、それってつまり、俺からしてみれば全くの他人じゃない…。
と思った所で電気屋が
「なに、ちゃんと手間賃は払うからさ。頼むよ!」
「え〜、でも俺予定あるしさ〜」
もちろん嘘である。何も無い。
そんな心を読まれたのかどうかは知らないが電気屋は強引に地図を渡して
じゃあ、おじさんから連絡入れとくから頼むわ!と言って吸っていた煙草を揉み消し、さっさと帰ってしまった。


そうしてその1時間後にはこうして知ったかぶりを駆使して老人相手にレクチャーしてると言った訳だ。
当然行くまでは色々な考えもあったが、中々どうして、こんなボンクラでも人の役に立ってると思うと清々しいもんである。
1から教えるんだったら時間掛かりそうだなぁ、と思ってたがそんな心配も無くこのお爺はそれなりにPCについては理解していた。
どちらかと言うと初心者より中級に近い印象を受けた。
そんなこんなで、どうにかインチキレクチャーは終わり。
まぁ、正直言って俺の知ってる知識内で教えられて良かった、とお茶を飲みながらホッとしていた。
帰り際「またなんかあったらお願いしますね」と好々爺に言われ普通に
「あ、はい。こちらこそ」と言ってしまったがまんざら嘘でもなかった。

来る時にはどこか重い感じを受けながら見てた車窓も今は
幾分、すっきりとしていた。
そうして俺は「悪くないね…」と呟きながら家路へと車を走らせていた。


あれ?そういや、手間賃とやらは?








と、言う一日だったのです。


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