たりたの日記
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2005年12月16日(金) 友遠方より来る また楽しからずや

遠方より来たSと一日都内で遊ぶ日。師走の忙しさの中の休息の日。
その時のお天気と我々の気分に合わせて選択しようといくつかのコースを考えていた。上野公園、美術館コース。渋谷文化村、ミュージアム&ギャラリーコース。吉祥寺、井の頭公園コース、新宿、うたごえ喫茶ともしびコース。このどれかのコースを組み合わせ、仕上げは池袋のダブりナーズアイリッシュパブというのが一応のプラン。

この日は信じられないくらいの快晴で、風もなく冬の散歩にはもってこいの日和。わたしはもとより人混みよりは自然が好きだし、すでに銀色の世界に閉じ込められているSもまた紅葉の残る公園に心が惹かれるということで、吉祥寺、井の頭公園コースに決定。

まず、公園を歩く前に軽食をと、Sが好きそうなお店、文学好きのオーナーがやっている三鷹の文鳥舎へ行ったところ閉まっていた。ネットではティータイムが10時からとあったのだけどな、残念。
三鷹駅まで戻る途中、なかなか由緒正しそうな鯛焼き屋さんが眼に入る。その店の前にはベンチが置いてあって、どうやら焼きたてのアツアツ鯛焼きをここで食べられる仕組みになっているようだ。
「食べよ、鯛焼き!」
外側がかりっとして中はもちっとした皮、舌を焼きそうにアツアツのあんこ、また道端で食べるというのが非日常で良いのだった。

さて、昼食。
たまたま入った吉祥寺の駅のすぐ側の地下のカフェ、名前を記憶していないが、その古めかしさと静かな感じがSの雰囲気にぴったりだった。一人で来て本を読んだり原稿を書いたりするのによさそうな場所。ここで、ようやくゆっくりと一年振りの再会を喜ぶ。Sとは昨年9月の高橋たか子さんの朗読会以来。思えば、あの朗読会に遠くに住むSが誘ってくれて、それから始まった文学ゼミや山やお酒と身辺はいろいろに変化したのだった。

 いよいよ井の頭公園。ここへは今年の桜の時期に来た。山行きの帰り、夜桜の下での宴会だった。水に映る桜の古木の姿がなんとも美しく、あの木が夏や秋にはどんな具合になっているのか公園を歩いてみたいものだと思っていた。
この公園をSと歩くのは格別。わたしのファンタジー度数も高い方だが、彼女のファンタジー度数は相当なもので、まるで尾崎翠の本の主人公といっしょに歩いているような気分になる。
わたしはふと男になった気分で

「シモーン、おまえは好きか、落ち葉ふむ足音を・・・」と、くちづさむ。
途中までしか覚えていないけれど・・・
Sがその詩のこと教えてと言ったから、後からこの日記に貼り付けておくとしよう。いつかの秋にこの詩を日記に書いているはず。
そう、木々にわずかに残っている紅葉や葉をすっかり落とした枝ばかりの桜の古木、小路を覆う落ち葉、水鳥、12月の公園は美しく趣があった。

もう日も傾いてきたので、公園を出ようとしたところ、ブルースハープとギターの音が聞こえてくる。音の方へ行ってみると、ちょっとおもしろそうな元気のいいストリートミュージシャンのおじさんがブルースっぽい歌を歌っていた。その熱っぽさは日本人離れしていて、まるでセントラルパークのストリートミュージシャンみたいだと思う。
Sとわたしが側のベンチで聴いていると、まるでわたし達二人のために歌ってくれているようだった。ラテンですっかり声出しが癖になっているわたしは聴きながら、思わず合いの手が入り、おじさんの演奏はさらに熱が入っていたような・・・


 予定の通り、最後はアイリッシュパブ。ここは以前、ゼミ仲間のKさんから連れてきていただいたお店で、ここにもまた来たいと思っていた。たくさん歩いた後この落ち着いた空間にどっかり腰を降ろすのは心地よい。ギネスビアとフィッシュ&チップスで最後の時間を楽しむ。

時間が来たので、Sを浜松町のモノレール乗り場へ見送る。今度はいつ会えるだろうか・・・
わたしはそのまま京浜東北線で大宮へ。電車の中では空席が見つけられたものの、10数名のすっごくけたたましい高校生の集団が側で陣を張っていた。こんなにうるさくては眠るに眠れないと思いながらも、いつの間にか終点まで熟睡していた。

友遠方より来る また楽しからずや。


<付録>  


    落ち葉      

             ルミ・ド・グールモン
             堀口大学 訳 (訳詩集 月下の一群 より)


シモーン、木の葉の散った森へ行かう。
落ち葉は苔と石と小径とを被っている。


シモーン、お前は好きか、落ち葉ふむ足音を?


落ち葉の色はやさしく、姿はさびしい、
落ち葉は儚く捨てられて、土の上にいる!


シモーン、お前は好きか、落ち葉ふむ足音を?


夕べ、落ち葉の姿はさびしい、
風に吹き散らされると、落ち葉はやさしく叫ぶ!


シモーン、お前は好きか、落ち葉ふむ足音を?


寄りそえ、われ等も何時かは、哀れな落ち葉であらう。
寄りそえ、もう夜が来た、さうして風が見にしみる。


シモーン、お前は好きか、落ち葉ふむ足音を?




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