たりたの日記
DiaryINDEX|past|will
宮崎から延岡へ向かう電車の中。曇り空、窓から見える海も空と同じ白っぽいグレー。旅に出て2冊目の本、辻仁成の「ワイルドフラワー」を読み終えた。つい最近、この作家のものを読み始めた。今まで食わず嫌いの作家だったかもしれない。 江国香織版の「情熱と冷静の間」を読んでから1年も間を開けて、この物語の残り半分である辻仁成版を読んだ。流れている空気が好きだと思った。フィレンツェの歴史をそのままに閉じ込めている古い街の描写はいい。ドゥーモの果てしなく続く螺旋場の階段を再び歩いているようなリアリティーがあった。確かな風景の描写を背景に、決して外面から推し量ることのできない、人間の心の奥が映しだされる。この作家は自身の心の深みに分け入ろうと、果てしない探索をしているように思えた。そこの部分でこの作家の作品を続けて読んでみたいと思った。その後に読んだ2冊とも読後に充実感がある。
「ワイルドフラワー」は舞台がニューヨークであるだけに、馴染みのある通りや、その街に漲る解放感と緊張、冷たさと熱さの入り混じった空気を生々しく思い出した。
わたしはあの危険な街の片隅パブの前に、全くの無一文の状態で深夜の2時過ぎまで3時間近くたたたずんでいた事があった。あの時の恐怖を通り越した、その街の中で漂泊しているような妙に醒めた感情が甦ってきた。この事はいつかストーリーに書こう。 あの街を呼吸しながら、そこで生きる登場人物の心の淵を見つめた。自分を束縛するものから解放されたいと苦闘する、哀し い戦士達。。
電車は延岡に着いた。ここから大分へ向かう高速バスに乗れば母の待つふるさとに着く。
|