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★短編小説12 - 2004年03月07日(日)






[ 梅と月 ]




梅の花が月の光りで淡く光る。
二人手を繋いで。




梅の花は桜の花が開く前に開花する。
真夜中の、人気の少ない道。
一軒の庭先の梅の花が、小さく淡い桃色を見せて、その花びらをちらつかせていた。



冬から急に春がやってきたような、とても暖かな日。
その日俺達バスケ部員は、ミッチーの飲み会に付き合わされて、二人ともなれない酒を飲み過ぎてしまった。
アルコールの入った俺達は、妙に熱い頬を冬の風で紛らわせている。
吹いてくる風は日中がどれだけ暖かくともまだ寒く、だけどその冷たさが気持ちよくて仕方なかった。
なにを喋るでもなく、俺と流川は、暗い夜道を並んで歩いた。


冷たい風を気持ちよく感じていた矢先に、流川が何かを見ている事に気付く。
まだ冬だと思っていた俺の視界に、梅の花が咲いているのが見えた。
垣根を少し追い越して、梅の木が顔を出している。
そういえば、毎年この道を通ると、梅の花が咲いてたっけ。
そんなことを思い出していた。


流川の定まらない視線は、なにを見るでもなくただ、ぼーっとしている。
梅の木を見ている様で見ていないようだった。


「春の」

流川が小さく、そう言う。
俺は疑問符を浮かべていると、流川は足を止めて、細めていた目を瞑った。
一呼吸置いて、薄っすらと目が開く。

「春の匂いが、する。」


冬の風に混じって、春の匂いがすると流川は言った。

春の匂いとその風の冷たさが気持ちいいようで、流川は曖昧な意識の中で目を瞑りながら動こうとしない。

俺も同じように、吹く風を肺に溜めた。
微かに、春の匂いがする。
それは俺にもわかった。


「おぉ、マジだ。春の匂いがする。」

アルコールのせいで、少し舌足らずになる。
俺の声に気付いて、流川が目を開けた。

流川と目が合って、なんだか妙に嬉しい。
俺が小さく微笑むと、流川も淡く微笑んだように見えた。
錯覚なのかもしれないけど、それでも俺はそんな流川の表情を見れたのが素直に嬉しかった。





なんとなく、流川の手を取ってみた。
出来心だった。

特になんの驚きもせずに、流川は俺の手を受け入れた。
握り返す力が、緩く伝わる。
お互いの熱も、緩く伝わる。

「もうすぐ春だな。」

「ああ。」
俺の言葉に、一歩遅れて帰って来た流川の返事。



暗い夜道。
人気の無いその道で、二人は手を繋いで歩く。


梅の花びらと月だけが、俺達を見ていれば良いと思った。
そんな夜だった。









end









久々に書いてみました。
3月ともなると、そろそろ春の匂いがしてくる時期ですね。
桜の花が咲く前に、梅の花が咲いて。
その前に、冬の暖かい日に、急に春の匂いが混じる時。

あぁ、もう春なんだなぁーって思います。

大概、私が住んでる地域と、私が生活している中では、春の匂いの後に梅が咲きます。
風が一番速く、春の訪れを教えてくれます。


だけど今年は例外。
2月の下旬くらいに、夏の匂いがしました。(笑)












...

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