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★短編小説11 - 2003年10月16日(木)






[時間]



初めて電話する。

家族が出たら嫌だ、なんて思う。

どうか本人が出てくれますように。

そう願いながら番号を押す。



なんでアイツ携帯持ってねぇーんだよ。

愚痴をこぼす。


たいした用じゃない。

携帯だったらメールで一発なのに。


でも、俺も持ってないけど。





無機質な電気信号。


プツリと音がして、相手に繋がった事を知らせる。

「…ハイ。」


誰だろう?本人?


「あっあの!桜木ですけど…流川君いますか?」


“流川君”だって。

気持ちワリィ。


「どあほう、俺だ。」


んだよ、本人かよ。


「おぉ、流川か。」


アイツが出て良かったって、内心思ってる。

見たことも無い流川の家族と話すのは、正直緊張する。


「ナニ?」


ウザそうに話しをする流川。

電話越しだと、尚更機嫌悪そうに聴こえた。


「あのよぅ…たいした用じゃねぇーんだけど…。」


口ごもる。

確かに電話したのは俺だ。

だけど、電話した理由が、この天才には惨め過ぎる。

そう思って何度もこうやってアイツに電話するのをためらった。


だけど、今日だけは。


「?」

流川の返事が無いから、無言の時間が続いてる。

ムダな通話時間。通話料金。

金ねぇーんだけど、俺今。




「あの…さぁ。」


「なんだ早く言え。」



たいした用じゃない。

そう思い込めばきっと、すんなり口から言葉が出るはず。



そう、たいした事じゃ。





「今から、会わねぇーか?」



そう、たいした事じゃない。






「どあほう。」


怒ったかなぁ?

この天才がなんて惨めな。

そう何度思ったか。



「5分でお前ん家着いてやる。」


得意気に言うアイツの声が、受話器の向こう側から聞こえた。

「…おう。」


俺の返事を聞いて、電話はブツリと切れた。

流川らしい、荒々しい切り方。




受話器を置いて、部屋の壁に凭れ掛かる。


手に汗握り過ぎ。



あと5分で、アイツはうちに来る。

5分なんて一瞬だ。

だけど、電話を掛けるまでに、その何十倍もの時間を要した。


俺はバカだと思う。




でも、5分で来るなんていったアイツも、相当バカだろう。






結局お互いバカなんだけど。







end




恋せよ少年。


デキたばっかの二人。
きっともどかしい恋愛してるよ。








...

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