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2011年04月15日(金) 私たちは日々すれちがって生きている

3月末に東京大学出版から本がでました。『ディスコミュニケーションの心理学:ズレを生きる私たち』という題です。この本は東京学芸大学国際教育センターの共同研究プロジェクト「異文化接触におけるディスコミュニケーション発生メカニズムの心理学的解明」の助成をうけて、編者の山本先生、高木先生を中心としておこなった研究会の成果です。長い時間をかけて、議論をかさねて出来た本です。私自身にとっては、執筆者の皆さんと議論できたことが大きな財産です。

コミュニケーション研究には、言っていることが通じることを出発点とするものと、通じないことを出発点とするものがあると思います。言っていることが通じることから出発するコミュニケーション理論にとって、ディスコミュニケーション(和製英語ですが)とはその失敗や逸脱でしかありません。しかし、通じないことを出発点として議論したらどうなるか。消極的な意味しかないのだろうか。通じないのだけれど、それでも私たちは対話を続けていく。その先には当初は予測もできなかったような結果があらわれてくるのではないか?。そういう対話の可能性に挑戦した本だと思います。

少々お高いのですが、手にとってみてくだされば嬉しいです。「つながりあって生きる」とは耳にやさしい言葉ですが、良いことばかりではない。現在、私たちの社会は、これまで以上に、いやがおうでも「分かりあえない」人とつながり、「分かりあえない」人と前に進んでいかなければならない事態に、様々なところで直面しているように思います。ディスコミュニケーションの存在に蓋をして通り過ぎることができる社会というのは、ある意味、幸せな社会かもしれないなと、元来、ことなかれ主義の私は思います。しかし、ぶつかりあっていかなければ、何も生まれない。私たち自身も変わることができない。

本書を読んで、この社会のなかでつながりあって生きるということの困難さと、明るい未来の可能性について考えるきっかけになればと思います。

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東京大学出版会
山本 登志哉 ・高木 光太郎(編)『ディスコミュニケーションの心理学ーズレを生きる私たち』

内容紹介
すべてのコミュニケーションは「ズレている」? 意思の疎通や普及に光をあててきた従来の心理学から少し視点をずらすと,生きられた問いにあふれる私たちの生の現場が見えてくる.日中韓の文化の間で,世代の間で,研究者と対象の間で,また,学校や法廷などの場で,気鋭の心理学者たちが挑戦する.

主要目次
序 章 ズレとしてのコミュニケーション(山本登志哉・高木光太郎)
第I部 対立から共同性へ
第1章 ズレの展開としての文化間対話(山本登志哉・姜英敏)
第2章 異文化理解における対の構造と多声性(呉宣児)
第3章 ズレを通じてお互いを知り合う実践(松嶋秀明)
第II部 日常性の中のディスコミュニケーション
第4章 ケア場面における高齢者のコミュニケーションとマテリアル(川野健治)
第5章 未来という不在をめぐるディスコミュニケーション(奥田雄一郎)
第6章 回想とディスコミュニケーション(高木光太郎)
第III部 ディスコミュニケーションを語り合う
第7章 見える文化と見えない文化(河野泰弘)
第8章 座談会 ズレながら共にあること
第IV部 ディスコミュニケーションを語る視座
第9章 ディスコミュニケーション分析の意味(山本登志哉)
第10章 ディスコミュニケーション事態の形式論(高木光太郎)
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