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2008年12月13日(土) 目を開けて夢をみていたのだと気づくための一冊

有元典文・岡部大介(著)『デザインド・リアリティー半径300mの文化心理学』北樹出版。

著者の先生方からご恵送いただきました。日頃から、その研究をみてひそかに勉強させていただき、尊敬している先生方です。ありがとうございます。大変勉強させていただきました。

本書では、いわゆる「状況論」とか「社会文化的アプローチ」とか「活動理論」とか「アクターネットワーク理論」とかいった考え方が扱われている心理学の専門書である。

もうかれこれ10年以上前、私がこうした考え方(の一端)にふれて興奮していた頃、状況論とは小難しく、初学者が容易に近づくのを拒むような雰囲気をもった学問だったように思う。難解な用語、独特の文体といったものが、本書の著者らの言葉を使うならば、初学者を遠ざける「デザイン」をつくりあげていたといったらよいだろうか。

もしかしたら今でもそうかもしれない。けれど本書は違う。難解な理論や用語がわかりやすく、題目にあるとおり半径300mにある実践(コーヒー店、焼き肉店など)身近な題材を用いて、説得的に論じられている。しかも、わかりやすくしようとして、内容まで「そこそこ」になってしまう専門書とは違う。内容もまた、現在、まさに議論されていたり注目されていたりする動向をふまえたものになっている。

私が理解したかぎりでは、著者いわく「文化」とは、現実の見え方のデザインである。いかに自然に、それ自体があるかのように見えても、人間はこの世の中を徒手空拳で生きてきたのではない。もしそのようにみえるのだとしたら、それはスピノザが「目をあけて夢をみる」といった状態に近い。むしろ、人間は世界と関わるために道具をつくりだし、それを蓄積ー継承し、自分たちが衝動のままに生きても不都合がないように、現実のデザインと再デザインを繰り返してきたといえる。これは現実の変革を可能にするという意味では、非常に夢のある世界観だし、私たちがデザインしていくしかないのだという意味では、非常に厳しさを感じる世界観だと思う。

本書を読んで、僕は10年ほど前に私がはじめて状況論にであったときと同じように知的興奮を覚えた。その証拠に送られてきた当日に読み終えてしまった(レポートの添削も、出さなければならなかった資料もあるのに!!)。

本書は、もちろん知識が増えるということもあるのだが、それだけではなく、むしろ世界の見え方が変わっていく本である。本書の主張になぞらえていえば、この本自体がこれまでの心理学が提供してきた世界観=現実のデザインを変更する力をもっている。本書を読んで多くの人がこの知的興奮を覚えてくれたらいいなと思う次第である。


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