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2005年07月22日(金) できることと、わかってできること

こころとからだ研究会は、Dの松村さんの発表。
松村さんはずっと英語教育に関心をもって、それとジェスチャーとの関係に注目している。
今日は、あるESSサークルにおける相互行為分析から、ジェスチャーがいかに相互行為のなかで学習者の理解を表示するものとなるのかということについての発表であった。
松村さんの主張したいことはもっと繊細なことなのだろうが、僕流に見てみると、その断片は、相手が何を理解し、なにを理解していないのかということを明らかにすることをめぐってのやりとりになっているようにみえた。

ビデオでは、ESSの部員たちがエイズについてディスカッションしている。ところがほどなくして、1年生部員のB君は、「エイズになると体重が減少する」ときの「体重」つまりweightが聴きとれずに、えっ、えっという感じで「わからない」ことを表示する。そして「それはどのようなスペルなのか」と問おうとする。しかし、それをDさんはさえぎるように「彼らはスリムになるの」という。そこに両手の幅をせばめつつ下におろしていく(つまりすぼまっていく)ジェスチャーが同期する。

ここで普通であれば、言葉をさえぎられたBさんは再びさきほど言おうとしたことを伝えることになりそうなものなのだし、周りもそうすべきものとして扱うのだが、不思議とこの場面ではそうはならず、Dさんは再びさきほどのジェスチャーを繰り返す。

Bさんはslimという言葉を何度となくくりかえし、Dさんのジェスチャーを真似る。しかし、彼のジェスチャーはfinishした感じがしないもので、手は落ち着きどころなく宙をさまよい、声も言い切ったという感じのしないイントネーションになる。そこでAさんはほほがこけるようなジェスチャーをやってみせるのだが、ここでもBさんのジェスチャーは、単にほほに両手をつけるという動作をしているようにみえてしまう。

ここにいたってようやく、彼はweightの理解に対してトラブルを生じが、それは"weight"という単語が聴きとれなかっただけにとどまらず、その後に他のメンバーが発している"slim"という発話が、"weight"を理解したということを表示するための発話になっていることもまたわかっていないことをフロアに明らかにしている。そこで、Aさんは"slim"をパラフレーズするように"loose weight"と何度か繰り返し、ようやくB君も得心がいったように大きくうなづく。

普通、こういう断片(たった22秒)は、単にみんなが"slim"と無意味に連呼しているかのようにみえてしまう。しかし、細かくみてみればB君が何を理解しており、なにを理解していないのかを精緻化するための連鎖になっていることがみえてくる。英語教育にはおそらく何段階かのレベルがある(適当いっていますので間違ってる可能性大)。つまり、耳が英会話になれるという段階と、そこでの内容が理解できるという段階、そして、それに主体的に参与していけるという段階だ。この3つのレベルが混在しているのが、初学者に教える際の難しさでもあるのだろう(ほんといい加減な説だな)。

そういう意味で、今回のようにジェスチャーの繰り返しを通じて、B君がなにをどのように理解しているのかと精緻化されていく過程というのは教育にも応用できる知見を生むのではないだろうか。もっとも、この場がESSの本来の目的である英語のディスカッションを楽しむ場ではなく、B君にとっては正しい英語を聴き取り、話すというスキルをみにつける場になっているということがいいのかわるいのか僕には判断がつかない。もし、これがリアルなコミュニケーションの場だったら、B君はただにこやかに「あーはー」とか言っていたほうが適応的だったかもしれないとも思える。スペルをやたらに確認するというのは、そこで会話を楽しもうという感じにはみえにくい。

ところで、この場面をみんなが互いの運動を模倣する場面としてみれば、James Wertschがロメトベイトのキャリブレーターの例をだしていっていたように、言葉のマテリアリティとも関連するなと思った。キャリブレーターの例は、理解がともなわずとも、言葉のマテリアリティによってコミュニケーションは可能だということが示されるわけだが、今回のデータでは、そのマテリアリティによって、かえって相手の理解がどこにあるのかが見えなくなってしまうこともあるということになる。

「ただ相手の言うとおりにできる」ということと、「理解してそれにしたがう」ということのあいだにある差を、われわれはどのようにして理解可能にしているのだろうか。おそらくそれは僕らの内部でおこっているひらめきとか、内的表象の組み替えの段階が一歩手前だとかそういうことではなく、<いまーここ>であらわになっているなにかであるということを探る意味でも、今回のデータは参考になるんじゃないかなと思いましたです。


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