英語通訳の極道
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2003年03月18日(火) 永遠の師

以前このコラムで、英語は日本で学んだ、と書いた。

まったくその通り。

私は、中学に入学して、"This is a boy."、"I am a pen."を習って以来、目にした英語は、ほとんどすべて声に出して読んで覚えた。

中学・高校の教科書、参考書、文法書、副読本、英文解釈、長文問題、またラジオ講座のテキストも雑誌も、手当たり次第、声に出して読んで覚えた。

特に珍しいことではない。それは、メシを食える程度まで英語を学んだ人の、ほとんどみんながやったことだと思う。

1970年代後半に著書や講演を通して大きな影響を受けた國弘正雄氏が、「只管朗読」という絶妙の命名をされたが、実はずっと以前から、繰り返し声に出して読むというのは、あらゆる英語学習者の基本だった。

*    *    *

英語を学ぶ上で、最も影響力が大きかったものは何かとよく問われるが、躊躇することなく、故松本亨のNHK「ラジオ英会話」をあげる。

私は、この松本亨氏の「ラジオ英会話」を中学二年生の一年間、休むことなく聞いた。家族旅行にもラジオとテキストを持って行った。それは一番大切な日課だった。松本氏の番組は逃したくなかった。面白かった。味があった。

英語の発音だけをとれば、もっとネイティブに近い人がいるかもしれない。しかし、松本氏は奥が深いのだ。教材も人間味に溢れ、グイグイ惹き込む。

なかでも秀逸は、「ナンシー・アンド・ジョージ」。宗教が違う若い男女の恋愛・葛藤を描いた名作だった。英語を勉強しているというより、二人がどうなるのかを知りたくて、毎日が楽しみだった。20分があっという間で、終わりはいつも興奮の余韻に包まれて、夢から覚める。

松本先生は、私を英語の世界へと導いてくれた、人生の師のようなものである。

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であった。

彼の番組は非常に人気があり、質問の往復葉書が、毎日何百と届いたらしい。彼は、そのひとつひとつに「手書きで」返事を書いた。私も、そういう手書きの返信葉書を、何枚か持っている。

たとえば、"dead"という単語は「死んだ」という意味じゃないのか?という中学生らしい内容の質問をしたとき、"in the dead of"や"dead end"はじめいくつかの例文を示して、分かりやすく説明していただいた。まだくっきりと記憶に残っている。

使用した「ラジオ英会話」のテキストは、渡米中保管場所がなくて、泣く泣く処分したが、手書きの葉書だけは、宝物として大切に保管してある。棺桶まで持っていくつもりだ。

中学2年の一年間真剣に聞いたラジオ英会話だが、しばらくして松本亨氏が退かれることになった。その後は、他の放送を聞いても、何だか物足りない、興味が涌かない。

これをもって、私もNHKのラジオ講座に別れを告げた。


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