第九話 〜豆の伝道師〜 - 2003年08月19日(火) 住人でいて欲しい人がいる。 今までに、二回は来てくれた。 でも、それは本人が望んで来た訳ではなく 私が呼んだ人だ。 それは、この住家に無くてはならない ‘コーヒー’ の豆を注文しているところの主任さんだ。 もう何年前になるだろう。 そう5〜6年前、私が長野の美術館の喫茶ルームにいる時 突然営業に来た、とあるコーヒー豆メーカーとの出会いからだった。 その時、その人はまだ主任さんではなかった気がする。 丁度、それまで卸してもらっていた豆に不満を感じていた。 けれど、なかなか業者を替えるとこまでいかないでいたという そんな時。 飛び込み営業で来たその30代も半ばの男性は 童話に出てきそうなほどのくしゃくしゃの笑顔をしていた。 とりあえず話を聞き、 飲んでみなければ分からないといって、試飲させてもらう事になった。 豆の特徴や価格の話をしながら しっかりエプロンをし、コーヒーを煎れ始めた。 最初に蒸らす為のお湯を注ぐと、 豆達はモコモコとふくらみ、ぽこっぽこっ、と息をする。 私は驚いた。 初めて‘生きている’コーヒーを見たのだ。 とてもとても、いとおしそうにポトポトとお湯を注ぐ彼。 豆もそれに答えているかの様だった。 煎れたての琥珀色のその飲み物は あたたかく、愛情がたっぷり入った味がした。 その時点ですでに虜ではあったが、 思わずそんな彼に色々話を聞いていた。 なんでこの会社に入ったのか? や、 これから何かやりたい事があるのか? など・・・ 年齢に似合わず、妙に落ち着いていたその人は さり気なく、自然に話をしてくれた。 「名前(企業名)を売るより商品を売れ」 そんな感じの頑固な創立者から出来た会社だそうだ。 独特の焙煎方法と、全て職人の手によって創るのを守り 派手ではない、本当に気に入ってくれる人達に扱って欲しい・・・ それを心から伝えるのを誇りにしている彼に ますます好感を持った私は 一も二もなく契約をお願いする事にしたのだった。 それから、私がその職場を離れても 時々個人的に注文したり、友人にも紹介したりしていた。 そして、 「いつか店をやるならここの豆」 そう決めていた願いは叶い、今こうしてある。 本当は、東京の配送センターへ注文しなければならないところを 私は、その今は山梨にある工場の主任さんとなった彼から 直接送ってもらっている。 ここの開店時には、山梨からここまでちゃんと研修しにも来てくれた。 このご時世で、生真面目にやっていく難しさも聞くようにはなったものの 私はこれからもここの豆を代える気はない。 今日も ‘生きた’ コーヒーと語り合う。 ちょっと気を抜くとご機嫌斜めにもなる、そんな豆達。 だからちゃんと、主任さんから教えてもらった 大切なものは大切に伝えなければ。 どうかあなたにも届きますように・・・って。 何でも相談できるし、とにかくその人が好きなので 私は勝手に住人にしてしまっている。 そんな場合もあってもいいでしょう? だから、彼は「豆の伝道師」 -
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