わし日記(たわごと)
目次|過去|未来|最新
帰り道、わしの前を中年の夫婦が歩いていた。 どうやら2人は、ペットショップで犬を買ってきたらしい。奥さんが空気穴の開いている紙箱を抱え、旦那は食器やペットシーツなどの、『犬用初期装備一式』の入っているらしいビニール袋を下げていた。 不意に、紙箱の中の子犬が、くぅんくぅんと、心細げな鳴き声を上げ始めた。 すると、それに向かって奥さんが半分笑いながら言った。 「情けない声上げるんじゃないわよ。どうせならワンって鳴きなさい」 子犬は、それで安心したんだかどうだか、鳴き止んだが。
奥さん。そりゃー酷な要求ってもんじゃないだろーか。
誰だって、自分より少しだけ大きい、頭上に穴が幾つか開いてるだけの箱に入れられて、何処へとも知れない場所へ運ばれているとあっちゃ、不安にもなるだろう。外も良く見えなきゃ(夜だから)音も良く聞こえない(その時、2人はしゃべってなかった)んだから、『ここどこー、誰かいるのー』と聞きたくなったとしても仕方なかろう。ましてや、たぶん生まれて数ヶ月の子供なんだし、ちょっと半泣きになってても当然だと思う。 それを、いきなりワンと元気良く鳴けってのは無茶な話だと思うぞ、奥さん。
次の角で、彼等はわしと別方向へと歩み去っていった。 子犬君、愛されるといいねえ。
今日の天気:晴
新瀬
|