危うく、あなたを逃がすとこだった。
一体何がきっかけで目覚めたのか、覚えていない。 携帯にメールが4件あって、 1件は寺島からで、 読んだと同時に、玄関のチャイムが鳴った気がする。
チャイムは2度鳴った。 寝ぼけ眼のあたしは、 鳴らしているのが寺島かもしれないとぼんやり思った。 出なきゃ、と思って体を動かしたら、 窓の下で、物音がした。
あたしの部屋の窓の下が、玄関前。 だから、降りる前に窓を開けた。
やっぱり、居た。 間に合ってよかった。
2ヶ月程前、あたしは、 5日連続で会うのは新記録だと書いたけれど。 今はもう、会ってない気がしないね。
一昨日も昨日も会って、 また今日も突然会ったけど、 何にも不思議に思わないし、 辛いとも思わない。
テニスで、 土日に会うのが絶対になったからなんだろうね。
数日前、あたしが壊れてたのは。 また、寺島から連絡がなくなるかもしれないと予想したから。 試合が近いこと、 メールの質問に答えないこと、 他のいくつかの状況があって、 11月のようなことになるのかな、って、思った。
前に経験があるから。 返信がなくても、あぁまたか、って思えた。 試合が近いからな。 苛々してるんだろうな。 こういうときは放っておくに限るから。 気にしないでおこう。
そうは思っても。 結局、いざとなれば捨てれる存在なんだろうとか。 シカトできちゃう程度なんだろうとか。 考えずにはいられなくて。
11月にこうなったとき、 いつもに戻るのに大分かかったことを思い出して。 今度はどうやって戻ればいいのかな、とか。 果たして戻れるのかな、とか。
あのときは、何にもわからなくて苦しくて。 今はわかるから苦しくないかと思ったけどやっぱり苦しい。 無視されるのはやっぱり苦しい。
もう少しで、あたしは、 「疲れた」 と声に出すところだった。
ふとしたことから始まった竜崎君とのメールに少し癒されて、 言わなかっただけだった。
電灯が切れて真っ暗い部屋で、返信をカチカチ打っていたら、 思いがけず寺島から着信。
あ、ちょっと外れた、って思いながら電話に出たけど。 苛々してる、って予想は大当たりだった。
そして数十分後には、 あたしは家を出ていた。 こないだの残りのお酒を持っていた。 あの、あたしが飲もうとしたウィスキー。 (と思っていたらブランデーだったんだけど)
ちょっと高めで美味しいお酒は、 寺島の機嫌をほぐしてくれたようだった。 2人でいつも見てるアニメを見て、 賞味期限の切れたうどんを食べて笑ったら、 大分、戻ってこれてた。
オレンジレンジを聴きながら、抱き合ってた。
ねぇ、笑わないでね。
あたしは正直言うと、オレンジレンジがあまり好きじゃない。 あの人達に常に漂う“軽さ”が、好きじゃない。 たまにある下品な歌詞も、好きじゃない。
でもね。
あの夜に、 あなたを腕の中にいれて聴いた「花」が、 妙に頭に残って離れない。
売れてるせいで、いつもテレビでかかってるから、 聴き慣れなれてる歌なのに、 あの夜以来、もっと頭に染みこんでる。
タイミング良過ぎたよ。 今まさにあたしの腕の中には、愛する人がいて。 大人しく目をつぶっているんだから。
愛することに気づいたのは。いつだったっけな。
作っていいのかよ、って思うと悲しいけど。 まぁいつものことか、って、涙を拭った。
どうもその涙も、寺島にはバレてたらしい。
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