「寺島」と呼んでみたり、「陽ちゃん」と呼んでみたり。 そんなことを繰り返すうち、 「陽ちゃん」が遠くなった。 あたしの中のあの人は、「寺島」。
竜崎君に会わないうち、彼の名前だけが、 中3のときの「寺島」のように、 ほのかな光を帯びていく。 幻だと、わかってはいるのだけど。
寺島に、「あたし」という存在はいらないのだろうかとか思っていたけど、 じゃぁ「あたし」って何だろう? と、帰りの電車の中でふと思った。 寺島をつくる要素のような、あたしをつくる要素。 考えてみたけど、多くは思いつけなかった。 それじゃあ「あたし」を主張する資格すらないだろう。
思いついた中に、 「寺島を好き」 っていうのがあった。 それなら寺島が、 「寺島を好きなあたし」 だけを求めてたとしても、 「あたし」を求めてくれているのには変わらないんだろう。
あなたの中のあたしの名前は、どんなかな。 知るのは少し、怖い。
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