昨日、出張からの帰りの飛行機で、孤独な戦いを一人強いられている少年がいた。3歳くらいの、まだあどけない少年だった。 彼の戦いを知ったのは、着陸寸前、シートベルトサインが出て、乗務員も座席に着いてからのことだった。私の数列前から、激しく泣き叫ぶ少年の声が聞こえてきたのだ。当初は何を言っているのかわからなかった。が、そのうち、泣きながら声を限りに訴える少年の言葉が、耳に届くようになった。 「がまんできないよー!おしっこー!まだつかないの!?おしっこ!」 彼は必死で耐えていたのだった。のども涸れよと訴える彼の声は、しかし、着陸態勢に入って機体がすでに前傾姿勢に入っているその時の状況では、むなしいばかりだった。それでも彼は、叫びながら必死に耐えていた。 ここで彼は、我慢できずに母親の膝にもらしてしまうという選択もできたはずだ。しかし、がまんできない、まだ着かないかと叫びながらも、彼は決して、もらしそうだとは言わなかった。着陸までの約10分間、叫ぶことでストレスを放出しながら、それでも耐えに耐えたのだった。そこに私は、まだ幼い彼の意地と矜持を見た。 やがて地上が見え始め、着地の振動がずしりと機体を震わせたとき、私は彼のために心の中で拍手喝采した。減速してすぐ、まだシートベルトサインが消えないうちに、乗務員がすかさず彼をトイレまで抱きかかえて行った。彼は孤独な戦いに勝利したのだった。 よくがんばった。彼の戦いは、だれもが身に覚えのあることには違いない。しかし、たとえ戦いに敗れたとしても仕方がないと許される年齢である彼が、にもかかわらず必死に時間と戦い、そしてみごとに勝利をおさめたことに、私はちょっとした感動さえ覚えたのだった。
どうよ?この話。私は彼にご褒美をあげたいよ。
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