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吉祥寺は表通りの華やかさばかりが目に付くが、その裏道を進む事で、過去の赤線地帯としての吉祥寺の一面を覗くことができる。 場所は正直わかりづらい。 旧近鉄(現三越)の裏に存在している。かつて「近鉄裏」と言えば、赤線地帯の代名詞と呼ばれていた。現在も怪しげな店が軒を連ね、年老いたヤーさん達がたむろして過去の栄華を懐かしんでる光景を見る事ができる。 そんな場所にある居酒屋である。 居酒屋によくあるパターンで、昼間にランチを提供し、夜に余ったものを、その日の特別メニューとして出すのがあるが、ここも昼食を500円で出している。ご飯やお味噌汁はお代わりでき、なおかつ料理の味もなかなか良い。ここのから揚げは、しょうゆで下味がついていることもあってか、独特の風味があり、好きである。味噌汁も毎日違う内容が好ましい。 ほぼ毎日ここに通っている。味や値段もその理由であるが、もう一つ、吉祥寺で「三文オペラ」「どん底」等のドイツ文学やロシア文学の臭いを少し嗅ぐことのできる、貴重な店だからが。 場所柄、この時間に来る客はサラリーマンだけではない…夜の仕事に備え先ほど寝床から起き出し、ブランチを摂りに来た、ホステスや呼び込みが多いのだ。 彼ら彼女らは長らくこの店の常連らしく、店主とその従業員とは友達のように話すのを聞きながら、食事をするのが楽しい。出てくるのは、借金、ヒモ、勤め先の先輩の暴力、店間の引き抜き、故郷の両親、アル中、暴力団の話…。隣の若い男、我輩はよく知っている。夜、会社を出る際に、近くのキャバレーで呼び込みをしている店員だ。犬食いをしながら、吉祥寺を出て、歌舞伎町に戻るかどうか悩んでいるそんな愚痴を店主にこぼす。後ろの座敷では、どこぞの姉さん達が、こないだ相手にした客の悪口を言い合っている。ある日、別のホステスらしい人の口から、同僚が行方不明になり、部屋がそのままになっているという事を伝えいた。 ランチよりも、これらの世界の隅っこを見聞することの楽しさよ。 このような事柄をゲームにしたら、面白いかもしれない。 彼ら、彼女らに幸いあれ。 「まずは食う事!それから哲学だ!」 (ベルトルト・ブレヒト「三文オペラ」より)
ANDY 山本
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