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2003年10月22日(水) 正しいやり方とは。

夜中にネットを徘徊していたら、「ライスをフォークの背に乗せて食べる」マナーというのは、いったいどこから来たものか?という議論をしている掲示板を見つけた。
ライスをフォークの背に乗せて、しかもそれをナイフでぺたぺたと固めて食べるやり方をしている人を、最近見かけることはすっかりなくなった。実家にあった昭和30年代の百科事典には、テーブルマナーの項に椅子の座り方からナプキンの広げ方、デザートの食べ方にいたるまで写真入図解されていた。デザートはメロンだったように思う。ナイフとフォークを使った「バナナのいただき方」も書いてあった気がする。筋にそって切れ目を入れ、開いた切れ目の中でバナナを一口大に切りわけつつ「いただく」のだ。昭和30年代、バナナが舶来の貴重品でメロンが桐の箱に入っていた時代の話である。その事典にはナイフとフォークを使ってライスを食べる方法は書いてなかったが、一昔前のテーブルマナー講習会などが頻繁に行われ、そこではライスの「いただき方」も伝授されていたはずである。が、何かの本で、アメリカの(多分、白洲正子氏がはいっていたような)超名門の女子校の寄宿舎では、そういうマナーが教えられていた、というのを読んだことがあるような気もする。
ちなみに私は左手のフォークを持ち替えずにくるりと腹を上に向け、右手のナイフをほうき、左手のフォークをちりとりに見立てて、フォークに乗せて食べる。これはずっと前にアメリカに語学研修に行ったときにドイツ人の学生がそうやって食べているのを見て真似するようになった。フォークの裏表を変えるだけで持ち変える必要がない。豆類もそうやって食べる。で、件の掲示板は「いまだにその方法で食べている人がいるが…」というのが最初の書き込みである。それに対してたちまち応答がある。初めのうちは、誰しもが「そんなマナーは本場では誰もやっていない」とか「戦後、行儀の悪いアメリカ兵がやっているのを日本人が猿真似しただけだ」とか否定的な意見が続く。ついで、在米歴が長い、という人が出てきて「アメリカではそういう食べ方をしている人はいないし、友達に聞いたら『よくそんなことができるねと笑われた』」とまで断言する。笑ってしまったのは、「無理にそんな(左に持ったフォークの背に乗せる)ことしなくても普通に食べればいいんじゃないですか」という意見が出てきたことである。この人の「普通」とは、右手に持ち替えたフォークの腹でご飯をすくって食べることらしい。何を持って「本場」とか「普通」と断言するのか…。
しかし日本のお米は丸くて粘り気があるが、あちらのお米はもっと長くてぱさぱさしている。それに主食としてよりは野菜の一種として扱われることの方が多いので、同じ土俵で比べることはできない。そういえばリゾットはリゾット用の丸いお米をスプーンで食べるではないか。掲示板の方はやがて、「やはりフォークの背にライスを乗せて食べるマナーは実在する」という話になっていく。イギリスの上流階級の人と会食した経験がある人が、実際にこの目で彼らがスマートにそうやって豆やライスを食べているのを見たといいだしたり、調べてみたらイギリスのマナーではそうするがフランスではやらないそうだ、という話が出てくる。そのうち「アメリカの友達に笑われた」という人はそのアメリカ人というのは、実はアメリカ在住のフランス人だった、とかいう告白を始めたりする。どうやら話をまとめると、イギリスでは豆類をナイフの背に乗せて軽く潰して食べるという「正式なマナー」は存在して、それはご飯類にも応用され、そのマナーが明治時代に日本に入ってきた、ということらしい。最近は全体的に食べ方がカジュアルになっているので、そんな食べ方をするイギリス人も少ないだろう。本場にもいろいろあるのである。欧米を十把一絡げに語ることはできない。
事実が明らかになるにつれ、掲示板の雰囲気も「私は知らなかったけど『上流階級の方々』そういう食べ方をするんですねぇ、感心。」みたいになってくるのも面白いのだが、翻って我々のお箸のもち方について考えてみても、お箸の持ち方が云々されているが、お箸をちゃんと持てるという自負がある人でも、きちんとしたマナーとなると案外知らないのではないか。少なくとも以前に和食のマナーとして習った「お膳の上のお箸をまず右手で上からつかみ、左手の平でそれを受け、右手ので持ち変える」とか「お箸を持ちながらおわんを持ち上げない」とかいうやり方をしている人はまず見かけない。逆に日本人以外の人々がそんなやり方をかたくなに踏襲していたとしたら、「お箸の国の人」としては「そんな無理しないで普通に食べなさい」というのではないか。

なんてことをうろうろ考えているうちに、再び睡魔が襲ってきた。とりあえず、自分が知っていることを全てと思うことや自分が知らないことは存在しないと思うことを自分に禁じよう、と寝ぼけた頭でそう考えた。


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