WELLA
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1998年07月04日(土) Meet People(2)

病院のボランティアコーディネーター、グレンダさんから送られてきた地図には住所と、「この地図は詳細ではないけれど、主なポイントは記してあります。」との手書きの文字があった。ケンブリッジの目抜き通りに面してあるらしいのだが、土地勘のない人間には主なポイントといってもピンとこない。大通りのどのあたりなのだろうか、肌身はなさず持ち歩いている「Cambridge A to Z」を見てもよくわからない。
「A to Z」というのは、住所が通りの名前と番地で特定されるこの国ならではの地図で、通りの名前で索引がつき、どんな小径も載っているので便利である。しかし逆に言えばこのような大通り、あるいは長い通りになるほど場所を特定しにくいということになる。

とりあえず、日時を決めるためにグレンダさんに電話する。「明日か明後日が暇なんですが」というと、即答で「じゃあ、明日の11時半にしましょう。かくかくしかじかだからちょうどいいわ」という。かくかくしかじかの部分はさっぱり聞き取れないのだが、その時間に行くと答える。ついでにバスで行くにはどうしたらいいかと聞いたのだが、バス停の名前を聞いてもバス停に名前はない、という。せめて何番のバスが通っているかと聞いても知らない、といわれる。挙げ句、「バスステーションに電話をかけて聞くのがいいと思うわ」といわれてしまった。それができれば苦労しないって。

ぐずぐずしているうちに、約束の日になってしまった。どのバスに乗るかは大体目星をつけておいたのだが、バスの運転手に聞くのはなんとなく気後れしてしまう。結局時間もよくわからないので、タクシーで行くことにした。ケンブリッジのタクシーはロンドンでよくあるようなオースティンはあまり走っていなく、普通のセダンにTAXIと表示してある。乗り方はロンドンのタクシーと同じで、まず助手席の窓から運転手に行き先を告げ、運転手が「あいよ」とうなずくと車に乗れる。
昔初めてイギリスに来た時、このタクシーの乗り方がわからず、「London A to Z」を頼りに延々1時間近く歩いたことを思い出す。やっとの思いでホームステイ先にたどり着いて、どうやって来たのか聞いたホストファミリーに大層驚かれた。しかし乗客が運転手と交渉しているのを見て、そんな恐いことをするなら歩いた方がましだと思ったのである。私は変なところが引込み思案なのだ。

タクシーの運転手は若い男である。グレンダさんから送られてきた地図を示す。この病院に行きたいのか、と確認されるので強くうなずくと、運転手は助手席のドアを開け、ここに乗ってくれという。そう言えば後部座席は自動ドアじゃない。助手席のほうが運転手にとっても楽なのだろうが、しかしいきなり助手席に乗るのは初めてである。見知らぬ男の車に乗っているような錯覚に陥り、極度に緊張する。
タクシーは何事もなく道を走り、やがて病院の敷地内に入っていった。運転手はある建物の前で車を停め、ここに受付があると指差して教えてくれた。緊張のあまりチップを渡すのを忘れてしまったのだが、にっこり笑って快く送り出してくれた。以前タクシーに乗ったときは女性の運転手で、チップを渡したらちょっと意外そうに「It's welcome!!」といっていたし、チップは必ずしも必要ないのだろうか?
ところで来る道すがら、目星をつけておいたバスとすれ違った。ということは家のすぐ近くのバス停から直接こられるということで、それがわかって少し気が楽になる。

受付で名前を告げると、係りの女性は何度いっても私の名前を覚えられなかったが、会う約束をしているというとすぐにグレンダさんを呼びに行ってくれた。彼女はすぐ来るという。待っている間、受付の周りに貼ってあるお知らせやボランティア募集のポスターなどを見る。ケンブリッジにはとても大きな中央病院があって、病人や怪我人は大体そこに運ばれるようなのだが、ポスターの説明によると、ここはその中央病院で治療を受けた後、リハビリをしたりのんびり療養したりするところらしい。
しばらくして向こうから犬をつれた中年の女性と杖をついたおじいさんがやってくる。なんだろうと思いながらやり過ごそうとすると、「Hello Reiko!」と手を差し伸べられた。グレンダさんだった。一緒にいるおじいさんは私と同じくボランティアの人だという。
「ええっと、実はピアノがある場所はここではなくて、車で少し走ったところにあります。そこで皆が待ってるの。今いくとちょうど昼ごはんの頃だけど、今日はピアノを見てもらうわけだから構わないわ。じゃ、行きましょう。」というわけで、車にグレンダさんとおじいさんと犬とで乗り込んだ。それにしても職場に犬である。彼女は毎日犬を連れて通勤しているのだろうか。

車はあっという間に町を抜け、かなり郊外を走っている。せっかくバスで来られると思ったのだが、場所が違う上にこんな遠くでは無理である。グレンダさんは運転しながらさっきの病院まで来てくれれば、その後は私がつれていってあげるわ、と言う。
車はやがて牧草地帯の中にある広い敷地の中に入っていった。ところどころに花が植えられ、低い建物がぽつぽつと点在している。


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