雨が降る。 フェンダーミラーもルームミラーも見えにくい。 ワイパーは正確無比で同じ動作を繰り返す。
歩行者はやはり少ない。 でも時折見かける。 傘をさして買い物へ。 はたまた家路へ急ぐ。
僕は教官の横田を助手席に載せてドライブ。 彼は行き先しか言わない。 次はコスモ石油の前の路肩に止めるという司令だそうだ。
とても静かな車内。 ワイパーはシャコシャコと一定のリズムを刻む。 車が横を過ぎて風がフュンという音を僕の耳に届かせる。 水溜まりにいけばバシャバシャとタイヤと雨水が合唱する。
あまりに静かすぎて横田が寝たのではないかと思って、横田の顔を見る。 でも彼は絶対に寝ていない。 彼は細いつぶらな瞳で前方から目を離さない。 彼は僕が見た事にも気にせず平静を保っている。 いや、ただ僕が見た事に気づいてなかったのかもしれない。
すぐに視線を前方に向け、スピードメーターを気にしながらドライブを続ける。 ワイパーと風とタイヤと雨水も音を出し続ける。 とても静かで楽しいランダムな協奏曲をかなでながら。
だから僕は雨の日のドライブが好きだ。
間違っても「雨の日は歩行者が少ないから」という理由ではない。 ただ彼らの演奏に耳を澄ませたいだけなんだ。
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