いつもの日記

2001年08月04日(土) 小説2

「わたし、あなたのこと好きよ」
女は男に向かって唐突に言った。
女は化粧中であったので、鏡を覗きこみながら、マスカラでまつげを整えながら言った。

「うん。僕も君のこと好きだよ」
男は鼻毛カッターで鼻毛を切りながら答えた。
男は女の化粧をただ待つのも暇だから鼻毛を切っていたのだ。

女はその様子を横目で見ていたのだろう、
マスカラを持っている手とは別の手でテーブルをバンと叩きながら言った。
「わたしが真剣に言っているのに、鼻毛なんて切りながら答えないでよ!」

やれやれまただ。
とりあえず怒りたいという年頃なんだろうか。
どんなことにでも突っかかりたいという気持ちがミエミエだ。
ふうっ、と一息ついて男は女のほうに体を向き直して答えた。

「おいおい、ちょっと待て。自分のことは棚に上げてその態度か?」
「はっ、何が?」
「君は化粧しながら言った。僕は鼻毛を切りながら答えた。これのどこが違うというんだ」
「・・・」
「君は自分の都合で「化粧>鼻毛切り」かも知れないが、
 大きなカテゴリーでみると「化粧≒鼻毛切り」であることは間違い無い。
 だから決して君は僕には立てつく事はできないよ」
「そーだね、そだね。はいはい、そーでした。ごめんなーさーい」
これまた、女は化粧をしながら答えた。

意味も無く立てついた事を悪いと解っていながら、
しっかり謝らずに、化粧をしながら謝るとは結局解っていないな、と男は思った。
ここは当然責めるべき処だ。
が、ここで女の誠意の無い謝った態度の事を重ねて責めたら、
僕達ははなかなか抜け出せない泥沼に入ってしまって家を出るのが遅れてしまう。
と男は考えて、責めるのを止めた。

電車に乗っている時にでもこの事は言えばいいさ。
だって既に太陽は頭の真上を過ぎたし、土曜の午後より日曜の午後の流れは特に速いから。


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