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過去のトラウマ日記
なぎさ



 親指のこと

太陽が生まれた時、私はすぐに娘の指を確認しました。
その様子を見て誰かが『ちゃんと5本揃ってるよ』と
言ったのですが、私が確認したかったのは
そのことではありませんでした。

親指です。ちゃんと普通の親指かどうか知りたかったのです。
小さく生まれた太陽は、指は細くすらっとしてました。
でも、親指は普通なのかどうなのか見分けがつきません。
何度も夫に聞きました。
「どう思う?私の指に似てない?」
夫は言いました。
「大丈夫、似てないよ。」
・・・そうです、私の親指に似て欲しくなかったのです。
それは妊娠中からずっと言い続けてました。
指だけは私に似ませんように・・・と。

私の親指は根元が細く、関節から上が太いのです。
誰かに「マムシの頭」と言われた事もあります。
しかも爪は横幅は非常に長く、縦幅が短いのです。
フツーの人と反対なのです。
とても醜い親指です。

みんな突然私の親指に気付き、大抵こういいます。
「おもしろい親指やね。」
(言葉を選んで言ってくれて、どうもありがとう!!
 なんで、可哀想ってな感じでわざわざ言ってくれるの?
 黙ってればいいものを・・・)
「変な指」「なんでそんな親指してるの?」とも言われます。
(率直な意見、どうもありがとう!!
 どういう返事を聞きたいのか、理解に苦しみます。)
相手が子供ならまだしも、大人からもよく言われました。
今現在もやっぱり言われます。

だから私は保育園の頃から、『前に習え』をするとき
いつも親指をかくしてました。
普通、親指を立てるけれど、
私のやり方は、親指を人指し指より下に押し下げたままです。
余計目立つと思いますが、子供の浅知恵だったのでしょう。
この癖は中学卒業するまで直りませんでした。

こんな醜い親指を見たことはありません。
たった1人を除いては・・・。
ある日、母に泣きそうになりながら聞いたのです。
「なんで私、こんな親指してるの?」
「お父さんからの遺伝よ」・・・・
ショックでした。『遺伝』という言葉にショックを受けたのです。
いつも酒を飲んで暴れ散らし、
自分の気がおさまるまで私を殴り続けるあの父からの遺伝とは・・・

親指を切り落としたいとさえ思いました。
何をしていても、視線に入ってくるこの醜い親指。
父に似ているということが、汚らしく思えてくるのです。
しかも、この世の中で父と私だけがこんな親指なのです。
少なくとも私が今まで出会った人の中では私達だけでした。

その日から私は、親指を見た目のいいものに変えようと努力をしました。
父に似ている、父からの遺伝、ということを否定するかのように・・・。

小学校の授業中は、関節から上の部分に輪ゴムを巻き付けて過ごしてました。
鬱血するまで締め付けるのです。
家では、爪の両サイドを爪切りでえぐるように切ります。
見えている部分を全部剥がし終わるまで、気がすみませんでした。
もちろん出血します。かなり痛いです。普通の人は耐えられないでしょう。
でも必死でした。
爪が剥がれたあと、又輪ゴムで締め付けると、更なる激痛が襲ってきます。
それでもやめませんでした。

親指の関節から上の部分をドアに挟み、
思いっきりドアに体重をかけて、閉め続けたこともありました。
又、美術の時間で電動の糸ノコギリ(?)の板を挟む所に親指を置いて
思いっきりネジで閉めたりもしました。
ただのコンプレックスだった親指が、
遺伝の象徴として、私にのしかかってきたその日から
来る日も来る日も、『締め付け』と『爪剥がし』に没頭していました。
22才くらいまで、無駄な努力ということに気付きませんでした。

遺伝というものは恐ろしいものです。
そんなに自分を痛めつけてまでやった努力は、全然実りませんでした。
そして1才8ヶ月になった太陽の指・・・
まだ結論は出ませんが、爪がほっそりしていないような気がします。

太陽ももう気付いています、あの男の本当の正体を。
3度も、修羅場を目の辺りにしてるのですから。
親指が似ていたら、きっと死ぬほど苦しむと思います。
だから神様お願いです。
私の大切な娘の親指を、あの男に似せないでください。
親指だけは、絶対に・・・・。

2001年02月10日(土)
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