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2005年02月06日(日) NYの街角:MoMAでの一日



友人、西海岸はスタンフォードよりきたる。

ついでに新しくなったMoMAに行き、ギャラリートークに参加。アメリカの戦後芸術における素材の変遷について、マルセル・デュシャンから説き起こして、ドナルド・ジャッド、ラウシェンバーグ、ジャクソン・ポロック、ウォーホール、そしてエヴァ・ヘッセまで概観するというもの。

工業的素材からジャンク、そしてより柔らかい素材―たとえばフェルトであるとかアルミフォイルであるとか―へ、そして、ファイバーグラスへ、という流れが面白かった。アルテ・ポーヴェラの必然性、ミニマリズムから資本主義リアリズムへの流れを、短時間で理解する助けになった。私のような素人にとっては、こういった専門家によるギャラリートークに触れる機会もそう多くはないので、非常に良い刺激になった。

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充実したギャラリートークはエヴァ・ヘッセの「19の反復」の前で終わり、その後、5Fのカフェでお茶をする。5Fのカフェはかなり洒落ている。MoMAブレンドという名のLoose Teaはスモーキー・フレーバーで元気が出るとの説明を受け、ありきたりとは思いながらそれを頼む。Maison du Chocolatのチョコを頼み、分ける。

その後、4Fと5Fを見て回る。興味の対象が、デュシャン以後というところにある私としては、(デュシャンピアンの作家がほとんどなかったことをのぞけば)以前にMoMAの旧館に来たときと同様、非常に楽しめた。一言で言うと、MoMAのコレクションには、初代館長であったアルフレッド・バー・Jrの趣味が色濃く出ているので、偏りがあるのは仕方がないところ、ということであろうか。しかし、その彼こそが、MoMAの設立によって芸術の首都をパリからニューヨークに移転せしめた立役者であることを考えると、彼の審美眼こそが、1940年以後の現代美術の世界における暗黙の前提とされたというべきであろうから、その影響力の大きさは計り知れない。そして、New MoMAの展示について語る際も、やはり彼の影響を排することはアンフェアというべきであろう。

具体的な作品の配置及びその展示方法については別の機会に譲る。



ひとつだけ、建築について言及させてもらう。ここを訪れた誰もが、「作品」として谷口の建築に注目している。その建築の評価について、誤解を恐れずに概括的に言ってしまうと、美術品が主役であるという基本を踏まえた控えめな設計で、出来る限り建築の存在をゼロに近づけるという試みであるにもかかわらず、むしろそのために非常に強い主張を持った建築になっているとまとめることができる。ミニマリズム建築は、美術館の設計の流れにおいては、ポストモダン建築の次の世代の流行ではあるが、谷口のこの建築は、美術館との関係ではむしろミニマルということを超えた普遍性を持っているように思えるから不思議だ。

より具体的に言うと、この設計では、ひとつの部屋から必ず他の複数の部屋の先が見通せるようになっている。また要所要所で拓けた空間へ接続し、ガラスを少なめにしているにもかかわらず、透明感を持たせている。美術館の中でどのように人が動くのか、という動線を強く意識した設計だ。その結果、この先に何があるのかということをほんの少し垣間見せることになる。これは、観客の意識が変わる。谷口の建築は予想以上の出来だったと思う。透明な建築を目指すという試みは成功しているだろう。「もっと予算があれば、完全に建築を消して見せます」と言ったそうだが、そうなれば、どんなものが出来上がっていただろうか。

その後、友人と近くのデリ(Mangia)に行き、雑談。いつもながら、素晴らしい博識と交友の広さに内心舌を巻く。年下の友人だが、自分がこの年齢であったときに、これほどの完成を見せていただろうか。色々な点で、ある程度私の問題意識と通底するものを持った彼が、日本の現代文学に関し、スタンフォードでどんな論文を書くのか、今から楽しみだ。

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注:事実と異なる点があったので一部を削除いたしました。関係者の方々には大変ご迷惑をおかけしたことをお詫びいたします。(追記:2005年5月11日)

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