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2000年11月16日(木)    「Longing/Love -憧れ」

今日の東京は曇り。相変わらず嫌になるくらいスッキリしない天気だ。
ここのところ滅入った日記を書いていたので、今日は気分転換に音楽の話を。

秋から冬にかけてのこの季節は、なんだかたまらなく北海道に行きたくなる。
残念ながら、北海道内の全ての場所を訪れたことがあるわけではないが、
毎回のように欠かさず赴く場所がある。道央の美瑛町だ。

夏になると富良野と並んでラベンダーで有名な街だが、個人的には秋〜冬の
季節に行くのが好きだ。夏は夏で綺麗だが、人が多すぎて落ち着かない。
ちょうど今頃の美瑛は、落葉松の黄葉が終わり、そろそろ本格的な冬支度に
入る頃だろうか。11月の三連休で黄葉を見に行きたかったが、今年は断念。

人気の少ない美瑛(特にJR美馬牛駅周辺)に行ったら、必ずまた泊りたい!と
思っている宿がある。その名はトロルド・ハウゲン
ペンション風のその宿は、寡黙な旦那様と人見知りしない奥様の2人で経営
している知る人ぞ知るという宿だ。殆どが口コミでの紹介だからだろう。

宿の全館が木のぬくもりに満ちていて、吹き抜けになっている1階のホール
にはコンサートピアノが置かれている。正面の全面ガラス張りの大きな窓から
見える景色は美瑛の穏やかな丘がどこまでも続く。
冬の真っ白な丘を眺めながら、特に何処にも出かけないで本を読んだりして
いると、至福の一時を過ごすことができる。

夜になるとピアノやギターを使ったミニコンサートが行なわれるのが、毎度の
楽しみで、コンサートの後は消灯まで皆で会話をする。
兵庫出身の御主人と福岡出身の奥様が、北海道で知り合い、結婚し、そして
北海道でペンションを始めてもうすぐ10年目…という話は後で聞いた。

「もしかして霞を食べて生きてるんじゃないか?」と思わせる雰囲気の2人は、
都会の日常生活からかけ離れた独特の雰囲気を持っている。
その独特の雰囲気が建物全体にも素晴らしく反映されていて、都会の生活に
少し疲れた時などにホッと一息つきに行くに持ってこいの宿だ。実際、冬の
閑散期は女性の一人旅の客が多い。
そもそも、冬の美瑛という街自体、癒しの街なのかもしれない。

毎夜のミニコンサートで定番として演奏されるのは、ショパンやドボルザーク
を始めとするクラシックから、ジョージ・ウィンストンやアンドレ・ギャニオン
などの癒し系の音楽、そしてオフコースなど、多彩な選曲になっている。
しんとした静まり返ったホールで澄んだピアノやギターの音色に耳を傾けて
いると、なんだか時限の違う空間に迷い込んだような不思議な感覚になり、
普段忘れている大事な何かを取り戻したような気分になる。

ところで、今のこの時期にピッタリな曲として、ジョージ・ウィンストンの
『Longing/Love−憧れ』という曲がある。だいぶ昔にCMで使われていた曲。
冒頭の音色が、木の葉の舞い散る様を連想させる旋律で、落葉松の黄葉の
時期にピッタリな曲である。一度トロルド・ハウゲンの生ピアノの演奏で
聴いてみたいと思っている曲だ。

トロルド・ハウゲンから帰ってくると、いつも無性にピアノを弾きたくなる。
真っ白な雪の丘に、うっかりすると見落としてしまいそうな小さな落葉松の
森(トロールの森)がある。
トロルド・ハウゲンは、その森の中にひっそりと建っている。
そんなお気に入りの宿に、年が明けたら冬のうちにまた行きたいと思う日々。


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