『太古八』

母と二人で目白の『太古八』。
カウンター席に座っていたら脛を何かが走った。驚いて飛び上がる。
足元を見ると大きなゴキブリが見えたような気がした。
床が黒い石なのでよくわからない。
「どうしたの」と母に聞かれたが、テーブルの下に置いた「バッグの紐かな」と答える。

暫くして母がバッグを取り出す。ピンクのバッグに一瞬黒いゴキブリを見た。
「なんかいた」と言ったら母は「え?何?ヤダ、何よ?」と騒ぎ始める。
他のお客さんもいるので「シー」と言ったが、母はカウンターの下を覗いて
「ああ、いる!いた!ホラ、あっちに行った!」。
店の人も出て来る。しかしゴキブリは見えなくなる。

「どうしても外から入ってきてしまうんですよね」と店員。
確かにチャバネゴキブリではないから、お店が不潔なわけではない。
「なんか気になって落ち着かないわね」と言う母とゴキブリの話。
脛をゴキブリに這われた私の方がよっぽど気分悪い。
何故冷静でいられるのか自分でも不思議だ。

そんなことがあっても太古八の料理は上品で美味しい。
きのこの揚げ出しが出たので「これ何?」と母に聞く。食べてみて「椎茸よ」。
「エー?椎茸?私大嫌いだけど食べられた。美味しいよ」
店主の羽賀さんに「これ、椎茸ですか?」と聞く。
「ううっ、う、うん、松茸」
おい!恥ずかしいなあ、もう。
「だって、時期が早いじゃない。偽物なわけないし」とごまかす母。
私も「松茸じゃないよな」と思ったから聞いたのだが、早松茸というらしい。

「松茸と、これは何ですか?」と聞く母。もう知ったかぶりは出来ない。
「生麩です」。この始めは何だかわからなかった1品が、今日一番美味しかった。

帰ろうとしたら酷い雨。太古八の店員が向かいのコンビニで傘を買ってくれる。
「すぐだからいいですよ」と言ったのだが、結局もらって助かった。
2002年08月23日(金)

抱茎亭日乗 / エムサク

My追加