無責任賛歌
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2003年07月19日(土) |
水害という名の人災/DVD『攻殻機動隊 STAND ALONE COMPLEX/笑い男編』 |
なんかまた、トンデモ物件っぽいものがお台場に(^o^)。 『ONE PIECE ワンピース』に登場する海賊船「ゴーイングメリー号」が実物のクルージング船として「フジテレビ開局45周年記念イベント・お台場冒険王」の一環としてお披露目。 お台場ってのもグータロウ君ご一家に案内してもらって、こりゃまた一風変わったヘンなものが生まれたものだなあ、と感嘆したことだった。私が感じた違和感ってのは、これはいったい「街」なんだろうか、ということである。 昭和30年代生まれにはギリギリ戦前の名残的感覚が残っていて、「街」ってのはやっぱり一つの生活感のある共同体として認識されているのである。だから我々は、『オトナ帝国』の夕日町に涙するし、宮崎駿のエコ趣味にもキレイゴトを感じつつ共感を抱く部分がやっぱりあるのである。「街」は日常の具現であり、生活と地続きの場、「ハレ」と「ケ」で言えば当然「ケ」としてそこにあるものだった。 今時の若い人にはちょっとわかんない感覚だろうけどね、休日に家族でデパートに行くなんて些細なことでも、我々にとってはすごいイベントだったのですよ。昔はデパートの屋上にたいていミニ遊園地があった。観覧車が回り、小さなジェットコースターも狭苦しい面積の中、レールを畳みこむように備えつけられていた。どんなに小さくともそれはやっぱり毎日の生活では味わえない「ハレ」の場だったのである。映画を見に行くのだって、子供のころは春休み、夏休み、冬休みだけのイベントだった。 割合で行けば、「ケ」の部分が10で「ハレ」の部分が1、今から30年くらいまでは、日本中の家庭の生活感覚はみんなそんなものだったろう。 今や我々の生活の中にはこの「ハレ」の部分が随分食いこんできている。今日は街に出て買いものだ! とウキウキすることもない(多少はウキウキするんだろうが、かつての比ではない)。逆に、日常生活に「ハレ」の部分が含まれていないと、かえって落ちつかないような、「毎日が日曜日」的感覚を欲しつづけているような、底無しの欲求すら感じられる。普段の生活が退屈だと神経に異常を来たし、堪えられなくなってしまうのだ。言ってみれば「ハレ中毒」、あるいは「ハレ依存症」である。 お台場のレトロ商店街を案内してもらいながら、そこで売っている昔懐かしい物に目を引きつけられながらも、これはやはり『オトナ帝国』に出てくる「夕日町」ではないなあ、と思ったのは、そこにはやっぱり「生活感」がなかったからである。店はあっても、そこに暮らしている人々がいない。遊んでいる子供たちがいない。路地裏もなければ、ゴミ箱のフタの上で寝ている猫もいない。ああそう、やっぱり「匂い」がないのだ。けれど今の若い人たちは、自分が日々を送る部屋の中からも「匂い」を極力排除していってはいないか。 「ゴーイングメリー号」というのもまあ、ヘンテコな船である。あんなのがたとえばそのへんの博多湾あたりに浮いてたら失笑ものなんだが、お台場のような「年中ハレの場」にあるならば、いかにも似合っていよう。似合っているだけに、私には何だかすごく「遠い」ものに感じるんだが、さて、毎日が「ハレ」でなきゃ気がすまない子供たちにはすごく魅力的なんだろう。 こういうところに集まってる女の子たちに、「ねえねえ、『ワンピース』のレアものフィギュアがウチにあるんだけど、見に来ない?」とか言って誘ったらホイホイ付いて来ちゃうんだろうか。 例の監禁されてた女の子たちも、毎日を日曜日にしたがってた感覚の子たちじゃないかって気がしてならないんだけれど。
9時に起床。 しげと殆ど同時に目覚めたのだが、外を見たしげが突然「大変なことになっとるよ!」と私を促す。 マンションのベランダから下を覗くと、なるほど、大変なことになっている。 川は流れるマンションの下~♪ なんて五木ひろしの替歌なんて歌ってる場合ではないのだ。 下の駐車場の車が、とれもみんな泥水の中に半分ほど漬かっている。うわあ、また御笠川が決壊したな。確かに夕べの雷雨は凄かったが、まさかこんなになってるとは、予想もしなかった。今年の梅雨、やっぱ半端じゃないわ。4年前の「悪夢はふたたび」と言うべきか。 なんて特撮番組のタイトルをモジってる場合ではないのだ。 ウチがこの分じゃ、4年前に死人も出た一番被害のでかかった姉の店がどうなってるか分らない。 果たして電話線が繋がってるかどうかの不安もあったが、ともかく店に電話を入れてみる。電話口に出たのは姉ではなく父。 「そっちはどう? 大丈夫ね?」 「大丈夫じゃない!」 いや、いきなり怒られても。やっぱり4年前同様、床上浸水。泥水が一気に流れこんできたそうだ。 ともかく片付けの手伝いに行くことを伝えたが、水が引かないことには車が出せない。テレビではバスも地下鉄運休とのこと。あとはタクシーでも拾っていくしかないが、もう一度外の様子を見ると、どうやら水自体は引いているような様子である。少し待てば車にも乗っていけそうだ(と言うか、その前に車が動くかどうかを確認しないといけない)。
駐車場に降りて、車のドアを開けた途端に泥水がザバー。シートまで見事にぐっちょり濡れている。これはすぐに掛けつけられないと、しげに頼んで少し遅れる旨、店に電話をさせる。慌ててたので携帯を持たずに出て来てしまっていたのだ。 ともかく水を出さねばと、雑巾で拭きとって行くが、どこかに水溜まりができているのか、拭いても拭いても水が流れてくる。下に置いておいた傘もゴミ箱もファブリーズもみんな水浸しである。 一番悲しかったのは、しげに貸してた長山靖生の『偽史冒険世界──カルト本の百年』をしげがシートの下に落としたまま、コロッと忘れていたことだ。ともかくしげは本を大事にすることをしないが(結婚する前、私がプレゼントした本を質屋に売っぱらってたこともある)、それを見つけてもやっぱり「ごめん」の一言もないのである。 幸いなことにエンジンは何とか動いた。でもブレーキをかけたりすると、どこかから「ぐもっ」なんて音がする。いきなり爆発したりしないだろうな(-_-;)。 車を近くのガソリンスタンドで洗車してもらって、姉の店に急ぐ。 しげ、スタンドで待っている間、しきりに劇団のみんなと連絡を取り合っている。よしひと嬢はJRが動かなくてこちらに向かえずに困っているらしい。ラクーンさんも会社が水浸しとかで来られない旨。他のメンバーも軒並み遅刻とのこと。 「どうせみんな遅れてるんだから、お前も遅れたっていいだろう。店の片付け手伝えよ」 返事がない。聞こえない振りをしているか、どう返事しようか考えているうちに何を質問されたか忘れてしまったのだろう。 「練習終わったら店に来るのか?」と聞いたら、「よしひと姉様を迎えに行かないと」と言う。 どういう理屈だか分らない。今は普段の状態ではないのだ。身内が被害にあってるってのに、どうして芝居の練習(真剣にやってるならともかく、所詮は遊び感覚なんだから腹が立つのである)を優先できるのか。 店の前まで来ると、しげ、いかにも素っ気無い声で「ここで落とせばいいやろ」と言う。どうやら本気で片付けを手伝う気はないようなので、もう無視して降りる。
11時を回っていたので、もう水は引いているが、店の壁に水が来た跡が残っている。床からほぼ30センチ。前回が50センチほどだったから、前よりはマシというところだが、それこそ五十歩百歩である。 水が引いたと言っても、床に近い戸棚の中は依然泥だらけ、店の奥の部屋はまだ泥水が1センチほど残っている。こりゃそう簡単に掃除できるものではないというのが一目でわかる。 着くなり、父から「しげさんは?」と聞かれた。「そのうち来ると思うけど」と誤魔化したが来ねえだろうな、多分(実際来なかった)。 4年前の洪水では、店の椅子が水に漬かって電機系統がダメになり、全て買い換えということになってしまった。そのときは店に姉しかいなかったから仕方がないのだが、今回は父が孤軍奮闘。洪水の危険があると見るや、朝一番に店に駆け付けて、あのバカ重い椅子を一人で持ち上げてブロックの上に乗せて、流れこんでくる水から守ったのである。70歳近いってのに、腰は大丈夫だったのか(^_^;)。 でも結局は、ブロックの高さ以上に水が入りこんできて、椅子が一台、スイッチを押さないのに勝手に高くなったり低くなったりするようになってしまった。椅子を守りきれなかった父の悔しがることったらないけれど、何を言っても仕方がないことではある。文句をつけるなら、こうなることが分っていて洪水対策を遅々として進めていなかった福岡市の行政の責任なのは火を見るよりも明らかなのだけれど、じゃあこれで心を入れ替えて護岸工事を進めるかというと、それはちょっと望み薄なのである。 氾濫した御笠川って、河口付近が結構蛇行してるんだよね。これが流れを堰き止めてる原因にもなっている。で、昭和の遺物の埋立地が更に水の流れを抑えちゃってるんで、その手前のあたり、ちょうど博多駅近辺の土地が低くなってるあたりが一番の被害を受けることになるのだ。 要するに川の流れを真っ直ぐにして、埋立地をとっぱらっちまえば川の氾濫防げるんだけれど、それをしない市の言い分は、「河口を広げるための下流の土地買収がうまくいかない」。 当たり前だ。下流には寺やら老舗の商家や学校やら、先祖代々そこにいるって人も結構いるのである。中流の護岸工事で水はけをかえって悪くしといて、そのツケを下流の人たちに何とかさせようってコスイ魂胆の市政に誰が応じるものか。
姉の話によれば伯父もさっきまで来ていたそうだが、もう帰ったとのこと。水が引いて、あとは道具の掃除などだけになったので、人出は要らんと見たのだろう。でも、店の外はヘドロが道路一面に広がっている。これをなんとかしないことには人が通れない。というより、そんなの無視して通ってる車がヘドロを撥ね散らしてくれるのだ。 側溝が詰まっているので、まずはデッキブラシでゴシゴシこすって水が通るようにする。ホースで水を撒いて、ヘドロを溶かす(そのままでは重くて動かない)。ブラシでヘドロを側溝まで押しやって、穴に押しこむ。これの繰り返し。 店の前だけを流しても仕方がないので、隣やまたその隣の店の前まで掃除しなけりゃならない。結局、店の内外含めてなんとか片付いたのは午後の3時過ぎ。 その間、引っ切り無しに店には電話がかかってくる。ほとんど全部「店は開いとるとな?」というお客さんからの問い合わせなのだが、だんだん姉の機嫌が悪くなってくる。「店、開けられるわけなかろうもん!」。店の心配じゃなくて、自分が散髪できるかの心配だから、姉がイライラするのも分るが、今時の客なんてのはそんなものである。博多の人間も「客だから威張っていいんだ」と思いこんでる糞野郎ばかりになっちゃったんだなあ。
帰り際、片付けのお礼というほどでもないが、水に漬かって売りに出せなくなったシャンプーとリンス、入浴剤をもらう。なんで床屋で入浴剤まであるのかヘンだったが、シャンプー・リンスとセットになってるらしい。 フタはしっかり締まってたので、中に異常はないが、まあ今更お客さんに出せはしないから仕方がないね。
3時を回った頃、「博多座」までタクシーで直行。 もともと今日は朝から博多座に並んで、森光子の『放浪記』の公演チケットを買う予定だったのだが、この水害のせいで、すっかり遅れてしまった。ギリギリ整理券の配布に間に合うが、番号が776番(800番で今日の分は打ち切りである)。実際に券が買えるのは2時間後ということなので、その間に食事や買い物を済ますことにする。 食事は中洲の「一蘭」で、久しぶりのラーメン。辛いだけでとんと美味くない店だが、七月限定で縮れ麺を出していたので食べてみる。辛さは注文できるので抑えめに。縮れ麺はスープが絡むので、辛口だとちとキツイのだ。細麺だと糸食ってるような気にしかなれないものが、これは美味い。限定品にせず定番にしてくれればいいのだが。 それでもこの店の、両隣の仕切りと暖簾で職人さんの顔が見えないのは落ちつかない。しげは相手と顔を合わさないでいられるこの店などの方が安心できるようだが、私は逆である。別にヒトとヒトの触れ合いがどうのってんじゃなくてさ、姿が見えないと、ドンブリに指突っ込まれたりされててもわかんないじゃないの。まあそんなことはしてないだろうけど。 チケットが買えたのはもう七時を回ったころ。いい席は取れなかったが、これも水害のせいだ。でもって対策取ってなかった福岡市のせいだ。えいくそ、税金返せ。
夜、練習が終わったしげ、よしひと嬢を連れて帰って来るが、濡れてしまった車のシートやらなんやらを風呂場にぶち込んでいて、しかも水害のせいか風呂場の電気がつかない。 なんとか車のエンジンは動くようなので、近所のスーパー銭湯、「月の湯」まで3人で行く。 家族向けに縁日が出ていて、金魚掬いなんかやってるけど、銭湯の建物の中でそんなの出されても場所が狭くなるだけである。いつもならこんなシチュエーションならば、よしひと嬢の湯上り姿を鑑賞してハナの下を伸ばしているところだが(おい)、とても今日はそんな余裕はない。食事はしないというしげとよしひと嬢と別れて、一人先に食堂で海鮮定食を食べる。まあスーパー銭湯の食堂だから、味はもうそこそこ以下である。 風呂自体はサウナに入るだけで疲れそうなので、ジャグジーでカラダを解きほぐしたらさっさと上がる。食事に時間がかかったのか、二人はもう風呂から上がってソフトクリームを食べていた。見てみると黒ゴマソフトとかいうヘンなものである。スーパー銭湯もいろいろキッチュなものがいっぱいだ。
帰宅して、DVD『攻殻機動隊 STAND ALONE COMPLEX』の「笑い男編」最初の3話『視覚素子は笑う/マネキドリは謡う/模倣者は踊る』をよしひと嬢に見せる。 このDVDシリーズの感想も書き忘れてたけど、キャラクターデザインにやや不服はあるものの(原作通りでいいじゃんかよ。プロダクションIGに作画できないわきゃないんだが)、近年のテレビシリーズの中で出色の出来であることに間違いはない。
6年前に起こった企業テロ「笑い男」事件。特A級のハッカーによって脅迫された企業は数知れないが、警察は未だに事件の片鱗すら掴むことができないでいた。 そんな時に起きた特捜班の山口の死。彼はかつての同期・トグサに死の直前、連絡を取っていた。山口の死の真相を追って調査を開始したトグサは、彼ら特捜班全員に視覚素子「インターセプター」(人間の目自体をカメラ化させてるものらしい)が仕掛けられていたことをつきとめる。警察内部の不正使用。それを告発しようとした直前に彼は消されたのだ。 公安が動いていると知った警察は、トカゲの尻尾切りのように、特捜部部長の更迭が発表する。ところがその記者会見席上で、突然義脳をハッキングされた刑事本部長が、自らを「笑い男」と称して、警視総監暗殺を予告し始めた……。
原作の『攻殻』はともかくウンチクだらけの書きこみを読むだけで疲れてしまう。だもんで2巻は買っただけでまだ読み通せてないんだけど、草薙素子は1巻でネットに沈んじゃったから、このアニメ版は「それ以前」という設定なんだろう。となれば完全なアニメオリジナルなのか。それにしては随分と「濃い」ドラマが展開されている。特に名は明かされてはいないが、押井守も一枚噛んでるんじゃないか。「笑い男」の設定なんて、いかにも押井守好みだし、特にコンピューターウィルスに犯されたわけでもないのに笑い男の模倣者たちが続出するクライマックスは、何か科学そのものを嘲笑するような底意地の悪さが感じられて、これも押井守っぽい。 何より、押井守ファンサイトの『野良犬の塒』で、毎回『攻殻機動隊SAC』の情報が「押井守はこの作品に関与してないはずなのに」提供されているのである。何しろあの人は「丸輪零」さんだからなあ(^o^)。ウラで何やってるか知れたものではないのである。 まだこの三部作では「笑い男」の正体は明かされないのだが、今DVDで買ってる分には「30分間、ネットで『笑い男』の正体を討論し合うだけ」という恐ろしいエピソードも含まれていて、このシリーズがアニメの極北を目指しているのではないか(^o^)という気さえ起こさせるのである。「リクツこねてるだけでアニメとしてどうか」というご意見もあろうが、「アニメはこんなもんだ」という決めつけは初めからアニメの可能性を狭めているだけだ。 こんな「挑戦的」なアニメを見てワクワクしなきゃ、人生損だよ(^o^)。未見の方はぜひ御覧になっていただきたいのである。
2002年07月19日(金) 踊る大脂肪/映画『MIBⅡ』/『ワイド版 風雲児たち』3・4・5巻(みなもと太郎)ほか 2001年07月19日(木) 天ブラサンライズ/『吼えろペン』1巻(島本和彦)/DVD『サウスパーク無修正映画版』ほか
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藤原敬之(ふじわら・けいし)
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