ささやかな独り言。...琴代 諒

 

 

3月13日 第39回フリーワンライ企画参加 - 2015年03月13日(金)

3月13日開催 第39回フリーワンライ企画
使用お題 「冷たい指」


晩秋の夜だった。
故郷を離れて久しい私の元に、祖母危篤の報せが届いた。
とるものもとりあえず駆けつけた私が見たのは、病院のベッドの上で辛うじて自発呼吸をしている祖母と、祖母の周りで泣き濡れる親類達だった。

「ばあちゃん、遅くなったけど来たよ」
そう言った声は届いたのだろうか。久しぶりに繋ぐ手は記憶のものより随分ごつごつして冷たかった。
晩秋の夜の中、がたがた震えながら駆けつけて冷え切っていたはずの私の手よりも、祖母の指は冷たかった。

実は、私は祖母と折り合いが悪かった。母は出て行き父は再婚して新しい家庭を築き、私が家族と呼べるようになったのは祖母ばかりであるのに、それでも折り合いが悪かった。
ふたりで、ふたりきりで暮らしているうちにどんどん祖母との間に流れる空気はギスギスしたものになり、その空気に耐えられなくなった私が実家を離れて、そうして私と祖母はやっとお互い折り合いをつけられるようになったのだ。

だから私は、祖母が危篤になっても、亡くなっても、きっと淡々としているのだろうとずぅっと思っていた。
思っていたのだ。
実際は、祖母危篤の連絡を受けてから病院に着くまで、手と膝の震えをなだめるのに精一杯だった。祖母が息を引き取って病院から帰ってきた時には、涙が溢れて止まらなかった。
そして、私はそんな自分を持て余し、どうしていいか判らずに葬儀関連の雑事に不必要に打ち込んでいたのだ。

自分が、祖母を愛していたのか憎んでいたのか絶望していたのか。どうしても判らないのに涙だけが出るのだ。

祖母が亡くなった今、私の中の子どもの私は途方にくれた顔で立ち竦んでいる。あの、病院で繋いだ時と同じ祖母の冷たい指を軽く握りながら、祖母と一緒に行く事もままならずに。
そうして私も、そうして途方にくれた子どもの自分を見る度に、祖母に怒りをぶつける事も泣く事も許す事も出来なくなって途方にくれるのだ。


...




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