ケイケイの映画日記
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2024年09月15日(日) 「夏目アラタの結婚」




良かった良かった、すごーく良かった!観ようとは思っていましたが、期待値は高くなかったから、もう感激!猟奇的なミステリーで始まり、それが薄幸の少女の数奇な運命に胸を突かれ、最後は瑞々しいロマンスにまで昇華されるなんて、本当に想定外でした。ラストは思わず感激して涙しました。監督は堤幸彦。

三件のバラバラ殺人の容疑者として逮捕された時、ピエロの化粧を施していたため、品川ピエロと呼ばれる女性、品川真珠(黒島結菜)。現在は留置所に収監中です。児童相談所に勤める夏目新(柳楽優弥)は、自分の担当する少年が事件の被害者で、見つからない頭部を聞き出すため、真珠に面会に行きます。すぐに去ろうとする真珠を捕まえるため、咄嗟の思い付きで「結婚しよう!」と叫んでしまいます。この心にもない一言のため、二人は夫婦となり、やがて事件の全容が明らかになります。

実はだいぶ前に無料公開分を読みました。面白かったので、完結してから読もうと思っていて、そのまま忘れてしまい、先に映画が公開されました。先日全巻読了。いやいや、先に映画にして良かった。コミックの虜になって映画を観たら、絶対文句タラタラになったはず。長尺の原作から大胆に脚色。あれもこれも刈り取って、アラタと真珠二人に終始する脚本は、時間制限のある映画として、私は有りだと思いました。

レクター博士の孫仕様のような真珠。不気味で不潔、不健康。でも可愛い。頭が切れ、瞬時で物事の真偽を見極める目は、非常にクレバー。真珠役が黒島結菜と聞いた時は、こんな清楚な子、マジか?大丈夫か?と思いましたが、出て来た瞬間、真珠でした。真珠の特徴である歯並びの悪さは、マウスガードを使ったとか。怪演に次ぐ怪演が繰り広げられる中、真珠の奥の奥を突き詰めていけば、一人の純粋な少女が現れる。孤独と強さも感じさせ、私は絶品だったと思います。すっかり彼女のファンになりました。

柳楽優弥は、常にセリフ回しの活舌が良くて、歯切れが良いのが、俳優としての長所だと私は思っています。人間的に厚みはあるけど重厚ではなく、軽妙ではあるけど軽薄ではない。彼の持ち味も、元ヤン上がりで、熱血漢の児相職員という役柄にぴったりです。当初は担当の少年のためであったけど、殺人鬼への好奇心もあったはずの感情が、真珠の手の内に自ら嵌りに行き、本来の真珠の姿を見つけ出すまでの様子に、無理がありません。

母親(風間爽子)から保護された8歳の時に、IQ70の境界線知的障害が疑われた真珠。それが今では108。ここに真珠の辛い過去が秘められています。IQが途中に上がる事はある事ですが、40近くは先ずは考えられない。「市子」とは似て非なる内容に、やっぱり私は怒る。お願いだから、母親になったら賢くなってよ。助けてと叫んでよ。子供は母親のペットでも私物でもありません。子育てを生き甲斐にしても、子供は生き甲斐にするな。子供は一つの人格を持った人間です。

法廷場面で、初めてアクリル越しではなく出会う二人。隙を見て駆け出した真珠が、アラタに抱き着く場面では、物凄くキュンキュンしました。こんなの久しぶりです(笑)。その他、獄中結婚の多くの理由、普通では知りえなかった法律、法廷や面会の規則も、多分ほとんどの人が縁がないはず。興味深い雑学として記憶に残ると思います。

原作を読む前だったので、テンポが速く、次々飛び出す意外な展開は、「ここで終わりか?」の思いを裏切り続けます。ずっと目を見張りっぱなしでした。そのテンポの良さに押されてしまい、後から考えたら、不可思議な事、説明不足もありますが、これは雑なんじゃなくて、膨大な原作を、熱気でカバーしたのだと解釈しておきます。

最後は猟奇的な出発から信じられないハッピーエンド。原作とは解釈が真逆ですが、数奇な運命を生きてきた真珠が幸せなら、私は嬉しいです。この想いは原作読了組も同じなようで、映画は別物と認識して、概ね了解しているみたい。

映画を気に入ったら、是非原作もお読みください。独りを除き、膨大な登場人物全てが、悪行はあっても悪人はおらず、それぞれに共感できる内容です。私はラストのページで、「お帰り〜。お風呂沸いてるよ」とにっこり笑う真珠に、映画に続き、泣きました。


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