ケイケイの映画日記
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2021年03月21日(日) |
「KCIA 南山の部長たち 」 |
韓国の故・朴正煕大統領の暗殺の顛末を描く作品。冒頭に史実を基にしたフィクションとテロップが流れます。良くある事ですが、鑑賞後は、この事を噛み締める事になりました。監督はウ・ミンホ。
1979年の韓国。絶大な権力を誇った朴正煕。側近である大統領直属の中央直属部(KCIA)の当時の部長に暗殺された史実を基に、登場人物を仮名にし、その内幕が描かれます。
私は日本に帰化した在日韓国人なので、多分日本の人とは感想が異なると思います。当時私は高校生で、日本の新聞にも一面に掲載。両親は、在日の環境にも影響が及ぶかもと、とても心配していたのを覚えています。
この作品に描かれているように、朴政権はほぼ独裁政権であったと記憶はしていますが、「漢江の奇跡」と呼ばれる経済政策で、貧困に喘いでいた韓国を、一気に経済的に底上げした功労者であり、大きな二面性を持つ大統領です。まず作品では、功罪の功の描き込みが少ない。
大統領を演じるイ・ソンミンとキムKCIA部長を演じるイ・ビョンホンが、「あの時は良かった」と、二人とも日本語で会話しているシーンがありますが、これは朴正煕だけではなく、キムも日本の士官学校に通っていたのだと、表していたのだと思いました。
権力者の孤独を描けば行き着く先は、猜疑心と傲慢。それが卑小さへと繋がるのは解りますが、その孤独に行き着くまでも悪漢に描かれている。そして同じく暗殺された警護室長も小賢しい巨漢の男で、スマートで知的、温厚なキム部長とは対極で、観客への刷り込みが過ぎます。相反するように、何故キムがそこまで追い詰められたかは、とても丹念に描かれています。そのせいか正義感から大統領を成敗したかのような、どす黒い華やかな解放感を感じる暗殺シーンでした。
何故キムが大統領を暗殺したか、韓国では大統領の寵愛を受けた側近であったのが、その立場を警護室長に奪われ、その焦燥感からキムは心身に破綻を来たし、暗殺に及んだと言うのが、韓国の見解。対して実際のキムの裁判での証言が挿入されますが、「大統領を殺さねば、韓国は国として立ち行かなくなるから」と言う証言を基に、作られた作品だと言うのがわかります。
うーん、でもなぁ。何度も政権の反対勢力として、野党の党首・キム・ヨンサム(ここだけ何故実名?)の名前が出てくるのに、日本でも記憶に深い当時のもう一人の野党党首・金大中が出てこないのかしら?この人、危険分子扱いで、日本でKCIAに拉致されるは、国内で軟禁されるは、果ては死刑宣告まで受けて、のち大統領になる人です。それってこの作品で描く憂国の士キム部長に不利になる事だからかな?この辺は私も韓国の史実は深くわからないので、関係ないかもしれません。
片手落ちの描き方に、少し落胆しました。フィクションとしてのみ鑑賞すれば、「人に人格があるなら、国にも格がある」と、野蛮な大統領の行為を諫めるキム部長のセリフや、アメリカ高官の「君の国はマフィアか?気に入らない政敵は拉致して殺して」のセリフに、過去を振り返り懺悔する気持ちも感じて、政治ドラマとしては、悪くない出来です。
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