ケイケイの映画日記
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2020年07月07日(火) |
「一度も撃ってません」 |
鑑賞して受ける層は、中高年に限定されるでしょうが、とっても面白かった!ハードボイルド仕立てのコメディですが、人生の先達方が楽し気に演じているのを見て、すごーく感慨深いものも去来しました。監督は阪本順司。
74歳の売れないハードボイルド作家市川(石橋蓮司)。定年退職した妻弥生(大楠道代)と二人暮らしです。市川は「伝説のヒットマン」と噂される人物ですが、実は殺しは小説にリアリティを出すため、「下請け」に出し、その詳細を聞いていたのです。しかし自分も敵のヒットマンから狙われたため、妻に浮気の疑いをかけらてしまいます。
とにかく往年の花も実もある役者の方々が、みんなカッコいい!トレンチコートを引っかけて、ウィスキー片手の石橋蓮司なんてね、頭の薄さも味方につけてしまう程、男の年輪を感じるのね。50年来の仲間のヤメ検石田(岸辺一徳)も、最近では「ドクターX」のアキラさんが若い人には浸透しているでしょうが、善人なのか悪人なのかわからない、その得体の知れない感が、今回もとっても良かった。
私がすごく感慨深かったのが、元売れっ子ミュージカル女優のひかる役の桃井かおり。奔放に艶っぽく、ポパイ(新崎人生)がマスターの、行きつけのバーにお出ましになり、カウンターの上で、けだるく「サマータイム」を歌う様子なんぞ、私が子供の頃から知っている彼女が、そのまま年齢を重ねていました。何が嬉しいってね、円熟なんて全然してないの。昔のままなの。
ところが、今じゃ落ち目のひかる、昼は立ち食い蕎麦屋で素顔で働くおばちゃんなんです。ひかる=桃井かおりじゃないのに、一瞬落胆してしまいました。でも現実的です。むしろ、昔のプライドを捨てて、地道に暮らしている立派な人です。でも私が感慨深かったのは、そこじゃない。
今のヒカルの暮らしはどうであれ、本来のひかるは、ポパイの店での彼女です。自由奔放、天真爛漫、大人になれないおばさんなのに、それが幼稚ではなく、平たい言葉で人生も語る。そして自らを婆さんと認めながら、誰もが周知する現役の女性です。人間年取ると黄昏系に傾いて、人生の蘊蓄を垂れたり、枯れる事でまた輝こうとする。何か姑息でしょ?
誰にも迷惑かけずに生きているなら、今の自分でいいのよね。今は老後が長く、私もいつお婆さんになればいいんだと(来年還暦デス)、くよくよ思っていましたが、嫌なら成らなくてもいいんだよ。一番素敵な頃の自分で、死ぬまでいていいんだと、この作品のお歴々を見て、痛感しました。
内容的には、勘違いすれ違いを基にしたコメディです。大げさな振りもなく、当初の果て?これはどういう訳?的な伏線は、後で気持ちよく拾ってくれ、小枝の謎も腑に落ちました。
ですが、そんなに笑える場面も多くなく、大人の哀愁に満ちたシーンも多く、全体にふり幅が中途半端な感じはしました。それと若い世代と熟年とのギャップも描かれていましたが、どこかでリスペクトとまで行かなくても、お互いが融合する場面も欲しかったです。
他にも佐藤浩市、江口洋介、豊川悦司、妻夫木聡の主役級のベテラン勢も、冴えない役や怪しげな役を楽し気に好演。その他も名のある役者もいっぱい出ていましたが、それぞれきちんと見せ場を作って印象に残す脚本と演出は、お見事でした
「顔立ちが綺麗で、固い茹で卵みたいよね、あの奥さん(弥生)。市川はあんな女好きよ」と言われた大楠道代も、大映時代の奔放なコケティッシュさは影を潜め、今では熟年の良き奥様がとても似合うのは、これが本来の彼女の持ち味って事かな?楽しく気の利いたセリフも多く、楽しかったです。ひかるが石田に、「死ぬまでに一回やろうねー」と言うんですが、70前になって、そんな事言える相手がいるって、いいなー。私も10年後言えるかしら?(笑)。
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