ケイケイの映画日記
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2019年09月09日(月) |
「ワンス・アポン・ア・タイム・イン・ハリウッド」 |
とっても楽しかった!二人の架空の俳優とスタントマンを狂言回しに、60年代末期のハリウッド事情を描いた作品。私は1961年生まれで、この作品の背景は覚えている事も多く、すごく懐かしく思いました。監督はクエンティン・タランティーノ。
かつてはヒットドラマの主演もあった、スター俳優のリック・ダルトン(レオナルド・ディカプリオ)。今は落ち目で、悪役ばかりやらされています。専属スタントマンのクリス(ブラッド・ピット)は、お陰で本業ではなく、現在はリックの付き人のよう。焦燥感いっぱいのリックの家の隣には、将来を嘱望される新進監督のロマン・ポランスキーとシャロン・テート(マーゴット・ロビー)のカップルが引っ越してきます。
主演二人はフィクションですが、他は実名やら実際の事柄をあちこち散らばめに、有名な惨劇、シャロン・テート事件へと繋げていきます。
落ち目のリックは、「映画出演で失敗した」と言う。この時代、テレビドラマがに隆盛となり、映画は徐々に斜陽へと傾きかけるのですが、まだまだ俳優の格は映画が上。テレビの人気を足がかりに、映画へと向かう俳優は多かったですが、成功は難しかったようです。今はほぼ同格みたいですが。
私が子供の頃は、アメリカのドラマがいっぱい放送されていて、「ローハイド」でイーストウッドを見た記憶があるんですが、これは多分再放送。「ハワイアン・アイ」とか「サンセット77」も記憶にあるけど、これも多分再放送。作中出てくる「FBI」も観ていました。私が大好きだった「奥様は魔女」と「かわいい魔女ジニー」がブッチされたのは、タラの好みじゃなかったのか。でも一番愛してた「ナポレオン・ソロ」が出てきたので、良しとしよう。テレビ版のアダム・ウェストの「バットマン」も観てました!
と言う訳で、台詞を聞いているだけで、気分が高揚してしまった(笑)。落ち目の自分を卑下するリックは、アル・パチーノ演じる大物プロデューサーに現実を突きつけれては号泣し、プロ意識の高い子役を前にまた泣いて慰められ、前夜の深酒で台詞をとちって、恥ずかしさのあまりトレーラーで独り逆ギレと、未熟さの塊。しかしひとたび気合を入れて演技をすると、凄まじい程の好演です。このギャップを観ていると、未熟さや女々しさも含めて、丸ごと愛したくなります。これがスターって事かしら?
クリスは女房殺しの嫌疑をかけられたいわく付きの男。でもリックは全幅の信頼を寄せています。クリスもボスとしてリックに尽くしている。専属のスタントがいるのは知っていましたが、仕事がなくなりゃ、コンビ解消と思っていました。ここは義理人情が好きなタラならではの造形かな?喧嘩を売ったブルース・リーに、スタントにしては顔が良いと言われていたので、容姿で俳優になり損ねた人が、スタントに回った事例もあったのでしょう。
このブルース・リーね、もうそっくりだったのー。この頃は「燃えろドラゴン」じゃなく、「グリーン・ホーネット」に出演。助手の日本人カトウ役で、ブレイク以前です。コニーと言われていたのは、こにー・スティーブンスかな?この人は記憶にないので、わからない。でも一番感動するくらい似ていたのは、ダミアン・ルイス演じるスティーブ・マクィーン!激似なのに、本家より15%減に感じるのが、また良かった。これは本家さんへの敬意だと思います。
リックは結局、主役が出来てお金にもなるしと、イタリアに渡りマカロニ・ウェスタンで主役を演じる事に。イーストウッドやリー・ヴァン・クリーフがそうでしたが、これは当時の象徴的出来事として描かれたのでしょう。ハリウッドでは、三下映画のの扱いで、これでハリウッド復権は望めないと、リックは理解しています。
他にも小ネタがいっぱいでね、シャロンが「テス」の初版版を夫にプレゼントしますが、これはのちにポランスキーが映画化。マンソンのコミューンに暮らしている未成年の少女が、クリスを誘惑しますが、「俺は今まで逮捕の網を潜り抜けてきた。今更そんな事で逮捕はごめんだ」と言います。これって、ポランスキーが未成年と淫行に及んで、ヨーロッパに逃げた事を連想しました。あれも当時ジャック・ニコルソンとアンジェリカ・ヒューストンが同棲していて、その屋敷のパーティーで起こった事なんだよなーと、もう映画の引き出しの数珠繋ぎ(笑)。
他にもチョイ役で、カート・ラッセル、ブルース・ダーン、ダコタ・ファニング、マイケル・マドセン、レナ・ダナムなど、豪華絢爛。シャロン邸に赤ちゃん連れで遊びにくるのは、ブルース・ウィリスとデミ・ムーアの娘だったと思う。三人とも似ているので、どの子かはわかんない。マンソンの一味で、逃げ出してしまう子は、確かイーサン・ホークとタラのミューズ、ユマ・サーマンの娘マヤ・ホークでした。
フィクションの二人に、ハリウッドの裏側の哀歓を演じさせるのに対して、ロビー演じるシャロン・テイトは実在人物。この事件を知らない人は、調べてから観た方が解りやすいかな?とても愛らしくロビーが演じています。自分の出演作(「サイレンサー破壊舞台」)をこっそり観に来て、観客の反応が上々なのをとても喜んでいる場面が初々しく、こっちはのちのちを知っているので、切なくなります。
この作品のポランスキーの描き方に、今の妻のエマニエル・セニエがお怒りだとか。ほとんど出演してないんだけどな(笑)。「12歳に見える才気溢れる小男」と言われてますが、私は絶妙な表現だと思うけどな。取り合えず、シャロンに対しては、最大限敬意を払っていると思いました。ここもポイント高し。フィクションとノンフィクションの融合も上手く噛み合って、愛すべきハリウッドの寓話になっていると思います。
二人の関係は、「兄弟以上、妻未満」と表現されます。何て深い結びつきなんでしょう。この二人の本当の終焉は、コンビ解消ではなく、シャロンの家に招かれた事だと暗示するラスト。これは古き良き時代の残骸を引きずっていたハリウッドが、新しいシステムに移行するのも、暗示していたのかなぁと感じました。
いっぱい懐かしく、いっぱい笑い、やっぱり私はハリウッドが好きなんだなぁと痛感した161分です。長くてお腹満腹ですが、中身は濃くないので胸焼けはしません。
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