ケイケイの映画日記
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2019年07月23日(火) |
「さらば愛しきアウトロー」 |
監督・俳優として、長年ハリウッドで活躍してきた、ロバート・レッドフォードの俳優引退作品。大御所の貫禄たっぷり。老いも味方につけての、余裕綽々の作品で、大変楽しかったです。監督はデヴィッド・ロウリー。噓みたいなお話ですが、実話が元です。
1980年代初頭のアメリカ。上品な老人タッカー(ロバート・レッドフォード)は、実は強盗と脱獄を繰り返す、名うての犯罪者。しかし手口はあくまで紳士的で、誰一人傷つけたことはありません。テディ(ダニー・グローバー)、ウォラー(トム・ウェイツ)と組んだ銀行強盗が「黄昏ギャング」と呼ばれ、ヒーロー扱いされます。彼らを担当する刑事のハント(ケイシー・アフレック)は、仕事に対して鬱屈した感情を持て余していましたが、次第にタッカーの生き方に、魅かれていきます。
私は「明日に向かって撃て!」が大好きなので、まず最後の役柄に強盗を選んだのが嬉しい。「ホットロック」もありましたね。
セルフイメージを最大限利用して、素敵な泥棒紳士ぶりで、火盗改め風に言えば、「犯さず殺さず火をつけず」の、良い強盗(笑)。狙うのは銀行ばかりで、個人の懐は痛まず、銀行員は「素敵な老紳士」でしたとまで言う。
どうして泥棒や脱獄を続けるのかと言うと、ただ楽しいから。そのお金で贅沢するわけでもなく、隠すわけでもなく、床下に放りっぱなしの様子に、納得します。歪んだ楽しみなのですが、演じるのがレッドフォード、そして役柄の74歳とで、お爺ちゃんの楽しみなんだし、別にいいよねと味方しちゃう。ダメなんですが(笑)。
のんびりゆったり流れる画面は、93分なのに全然あくせくしない。立派な地位のある役柄を選ばず、根無し草の強盗を最後にレッドフォードが選んだのは、後は楽しい事だけして、悠々生きて死んでいきたいという想いなんだなぁと受け取りました。それを一緒に体現しているのが、ロマンスのお相手ジュエル(シシー・スペイセク)。こちらもチャーミングな老婦人。
家庭を守り貞淑に真面目に生きて、現在夫を見送り子供も自立させ、彼女も一人。「もう何もかも自由にしたいのよ。」の言葉の重みは、70前後で有ろう彼女より、一回りは下の私でも重々わかるのです。タッカーが訳ありなのは気付いていますが、女性として人としての経験値で、彼の人柄を見抜いている。20年前の彼女なら、警察に駆け込むかも知れません。でも今の彼女は、タッカーとのロマンスを楽しみたいのです。家族やしがらみからの開放感。これが自分に責任を持ちながらの、本当の自由なんだなぁと、物凄くジュエルに憧れました。
人生は長い。悩みや葛藤も、時間が癒してくれる。捕らわれずに人生を楽しみなさいと、働き盛りの中年に伝言するため、ハントの役柄を配したのかと思います。
かつての美貌も何処、今はしわくちゃのレッドフォードですが、時々挿入されるかつての写真や映像が挟まれると、現実の彼の皺が伸びて見えちゃう(笑)。昔通りの美貌の、端正で上品なレッドフォードと93分お付き合いしたようで、大変幸せでした。
シシーが本当にチャーミングでね。レッドフォードの最後の作品ならば、メリル・ストリープだってダイアン・キートンだって、どんな大スターだって出演を承諾したでしょう。シシーもオスカーを取った名女優の一人ですが、スター性としては地味。でもこれも女の年輪よと、皺の刻まれた顔からの、人生の哀歓に満ちた笑顔は、根無し草のタッカーの心を捉えたのが理解出来ます。シシーのキャスティングは、レッドフォードの希望だったのじゃないかしら?
他にはいつも通りもごもご喋りながら、タッカーの影響で一皮向けるまでを、ケイシーが好演。舞台は南部ですよね?あの時代に刑事とは言え、黒人の奥さんを貰ったのは、実は漢な人だと表しているのかな?
私がレッドフォードが一番美しいと思ったのは、「ギャツビー」ではなく「追憶」。一番好きな作品は「大いなる勇者」。長い間楽しませて貰って、ありがとうございます。是非もう一本、監督作を観たいです。頑張って下さい。
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