ケイケイの映画日記
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2019年06月14日(金) 「エリカ38」


故・樹木希林(母親役でも出演)が、家族同様に愛情を持っていた浅田美代子に是非代表作をと、企画した作品。年齢不詳の愛らしさを持つ浅田美代子にはぴったりの題材で、希林さんは、本当に彼女の事大切に思っていたんだなと、公開を楽しみにしていました。しかし個人的には、色々雑な面ばかりが目に付き、仕上がりはとても残念でした。監督は日々遊一。

ホステスをしながらネットワークビジネスにも手を出している聡子(浅田美代子)。ある日、その会合を見ていた伊藤(木内みどり)と名乗る女性から、平澤(平岳大)と言う男を紹介されます。国防省関連の仕事をしていると言う平澤は、途上国を支援すると形で資金を集め、国境を越えたビジネス展開していると語り、聡子に片腕になってほしいと頼みます。承知した聡子は、次々と客を紹介。しかし二人は、その資金を私的に流用し、贅沢三昧の暮らしを始めます。聡子は佐々木(岡本富士太)と言う老人に気にいられ、家を一軒贈られます。老人ホームに入っていた母を呼び寄せる聡子でしたが、破綻はすぐ傍まで来ていました。

架空の儲け話で資金を集め、それを手にタイに逃亡。逮捕された山辺節子がモデルの実話。その時、実年齢は還暦を超えていたのに、息子のような年齢の現地の愛人には、「38歳」と噓をついていた事が、タイトルの由縁。世間の耳目を集めた事件で、ご記憶の方も多いと思います。

まずは聡子の履歴ですが、家庭不和の思春期の頃は描いています。彼女の詐欺体質は、生い立ちから来ている風にしたいんでしょう。父親は暴君で浮気もしている。でも聡子に癇癪を起すのも、「その年で男といちゃつくな!幾らかかっていると思っているんだ!」と言う台詞、唐突過ぎて意味不明。いちゃつくはいいとしよう。幾らは、「お前を育てるのに、俺はどれだけ働いて頑張っているのかわかるのか!幾らかかってるんだと思ってるんだ!」でしょ?

妻を殴打していると思わせるシーンでも、「だから俺があれほど言っただろう!」と、声だけ。どんな理由であっても、妻を殴って良いはずはないけれど、どんな理由か説明しなきゃ。台詞で説明したくなきゃ、殴っている描写をすれば?浮気相手と父親がキスするシーンだけ、やたらねちこくて、少々気持ち悪い。これで聡子の性格が歪んだんですよ、行間読んでくれは、雑過ぎる。

これ以降は60前後のホステス時代まで、背景を描くのががすっぽり抜けている。この間の方が、彼女の人格形成に重要な事があったように思いますが。結婚暦はあるのか、子供はいるのか、男関係は?ホステス以前はどんな仕事をしていたのか、まるでわからないのは、ダメだと思います。

雑な描写は、愛人関係になったあと、浮気がばれて聡子に去られた平澤が、金の工面に聡子に電話ですがるも、出てもらえない。その時平澤の顔には殴打の後。金を払えず怖いお兄さんたちに殴られたのはわかるけど、その時も独り。それだけ。えっ?開放されず、横で怖い人がゴルフのスウィングでもしてりゃあ、瞬時にして盛り上がりますが、平澤も背景としての描き込みがほぼなく、盛り上がりゼロ。全体に台詞、演出の主語がなく、演出の中途半端さが目立ち、盛り上がりたいのにそれが出来ない。

投資家たちが、聡子に詰め寄り紛糾する場面が長すぎ。多勢の中孤立する聡子が、ふてぶてしく相手を煙に巻くのは良かっただけに、同じ事の繰り返しのこの場面、半分以下で良かったわ。

その他にも何故タイに行くのか、片言であっても英語が喋られるのはどうして?とにかく聡子が一度も躊躇することなくこの犯罪に手を染めたのか、わからないのです。平沢の浮気以前に、気付く時はいくらでもあったはず。これで「私も被害者」というのはお門違い。そのお門違いをラストであの肯定は、強引過ぎる。

何より怒ったのは、浅田美代子が全く可愛く撮れていない!彼女は最近やっと老けてきましたが、五年ほど前くらいは、年齢不詳の愛らしさで、中高年女性向きお洒落雑誌でひっぱりだこでした。特別若作りしているわけでもなく、気負いの無いスタイルは、熟年女性のお手本でした。彼女の若さの証拠には、一回りしたの平、息子ほどの年のタイ人俳優相手の濡れ場も、違和感がありません。

清潔感と華やかさもほどほどにある人は、この年齢では稀有です。それが全く生かされておらず、浮腫んだ顔、弛んだ目元を強調するようなショットの数々には、落胆しました。彼女有りきの企画なのに、全く愛情を感じません。

上にも書いたけど、あの形式でラスト事件の核心を語るのは、手抜きです。女優よりタレントとしての活動が長い彼女には、確かに主演を勤めて代表作となるでしょう。この作品に出ている小松政男とか、息長く芸能界に入る人は、やはり腕が違います。美代ちゃんもしかり。普段は眠っているその力量を見せてもらえたのだけが救いかな?残念な作品です。


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