ケイケイの映画日記
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2019年03月03日(日) 「THE GUILTY/ギルティ」




これは拾い物。電話で見えない相手と繋がり、コミュニケーションを取りながら、事件を解決するプロットは、結構あります。真っ先に浮かぶのは、「セルラー」かな?でもこのデンマーク作品は、ハリウッドの事件解決、めでたしめでたし、とは一味も二味も違う結末が待っている秀作でした。監督はグスタフ・モーラー。

警察の緊急センターでオペレーター中の警察官のアスガー(ヤコブ・セーター・グレン)。電話を取った相手は、元夫のミケルに誘拐されたイーベン。彼女を救い出すため、アスガーは死力を尽くします。

場面は緊急センターの中の、狭い空間を行ったり来たりするだけで、ラストまで外へは一歩も出ません。その点がまず、ハリウッドと違う。イーベンやミゲル以外にも、元夫婦の間の娘やアスターの相棒、上司、他の部署のオペレーター等複数の人々が出てきますが、みんな電話からの声だけ。それなのに、その場が目の前に繰り広げられているように想像できる、会話の数々が、まず秀逸です。

次々代わる電話の相手から、アスガーと言う人が浮かび上がる。彼は何か不始末があって、現場から外されており、明日がその裁判。妻は家を出ています。
思うように事が運ばず、物にあたったり、失礼な態度を同僚に取ったり。自分の独断で、飲酒している相棒に、ミゲルの家宅捜査を車で急行せようとせっつく。気が短く偏見や思い込みが強く、尊大で傲慢な男です。多分自覚しているのに、直らない。妻が出て行ったのは、そういう夫の気質に、嫌気がさしたのだと思います。

イーベンを捜索する中、彼女との会話で、アスガーは自分の思い込みに愕然とします。多分優秀な警察官であるはずのアスガー。だから不始末も、何とか周りが揉み消そうとしているのでしょう。その強引な捜査はどこから来るのか?ミゲルには前科がありました。彼は正義から罪を怒り、全ての犯罪者を憎んでいたのではないか?彼の過去に、そうなってしまった事がある気がしました。
罪を憎んで人を憎まずと言いますが、それは警察官に一番大切な言葉なんだと痛感しました。

水族館の話しをする、アスガーとイーベンの会話が美しい。彼に純粋な良心を取り戻させたのは、弱者のイーベンだったと思います。「お手柄ね」の、他の部署の同僚の声は、アスガーにとって皮肉でしかありません。ラスト、やっと部屋から出たアスガーが、廊下で電話した相手は相手は誰だったのか?私は妻だったと思います。

爽快感皆無の、苦い苦い結末ですが、その苦さは、アスガーの今後の人生の糧に出来るはず。アスガーには、今後も警察官を続けて欲しいと思いました。ハッピーエンドではありませんが、感傷だけではなく、微かな希望も抱ける作品です。




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