ケイケイの映画日記
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2019年02月19日(火) |
「女王陛下のお気に入り」 |
ランティモスの作品がオスカーの10部門にノミネートされたと聞いて、世も末じゃと思ったアタクシですが、もしかして、アルモドヴァルみたいに、早々円熟しちゃったの?と哀しんだのも杞憂に終りました。日本に3桁くらいしかいない(はず、多分)ランティモスファンのご同輩、安心召され。愛も変わらず珍妙で黒くてグロテスクで、そしてラストはペーソスたっぷりです。監督はヨルゴス・ランティモス。
18世紀のイングランド。フランスとの戦争と紛争中ですが、女王のアン(オリヴィア・コールマン)は政治に疎く、幼馴染のレディ・サラ(レイチェル・ワイズ)に全幅の信頼を寄せ、政は彼女が取り仕切っています。そこへ没落貴族のサラの従姉妹アヴィゲイル(エマ・ストーン)がやって来て、何でも良いからお城での仕事が欲しいとねだります。アヴィゲイルは、身分の復権と言う野心を持っており、持ち前の賢さで女王に取り入ります。
つー事で、サラとアヴィゲイルの「女王のお気に入り」争奪戦が始まります。 みんな嫌な女でね(笑)。嘘はつくは、身のこなしは下品だわ、汚い言葉は発するわで、コスプレ物の品格など皆無です。やっぱりランティモス(笑)。ここは要するに「大奥」なんですね。どれだけ女王の寵愛を得るかが最重要。しかし「上様」は女というややこしさ。これが巧みに脚本と演出で、滑稽でグロテスクで切ない。全然エロチックじゃないのは、愛がないからなんだな。
女王は病弱な上に、癇癪もちの醜女。小さな子みたいに駄々をこねたり喚いたりするので、最初は頭が弱いのかと思う程でしが、17人の子を流産死産で亡くしている事が起因しているようです。精神の疲弊が肉体へ及んだんでしょうね、過食嘔吐を繰り返すのは、今で言う摂食障害なのでしょう。そう思うと哀れです。ジタバタひっくり返って、「死にたい!」と絶叫する滑稽な姿には、涙が出て。しかし直後、したたかで下衆な面をバンバン見せられ、私の流した美しい涙を、返して頂戴!と言う気分になる(笑)。
政治に忙しいサラの間髪を抜いて、女王に取り入りアヴィゲイル。サラが男前な愛を女王に注ぐのと正反対に、女としての手練手管で女王の寵愛を得ます。こんなに若くて美人なら、こんな方法でなくても、ある程度身分の高い男に取り入ればいいのにと思いますが、聞き逃してしまいそうな過去の独白に、秘密が解明出来るのでしょう。彼女はあらゆる女の武器を駆使しても、作中一度も男と寝ません。多分今後もセックスはしないと思う。女王に取り入るのは、彼女なりに一世一代の大博打なのでしょう。そう思うと、この性悪女が愛しく思えるのです。
最初はまぁ何て怖い女・・・と思っていたサラですが、夫の前では淑やかです。それが一度政治の場に出ると鉄の女と化します。一見友情が縁での出世のように見えますが、アンが女王でなければ、この友情は育ったのか否か、わかりません。それを一番知っているのは、女王でしょう。
コールマンが主演、エマとワイズが助演でノミネートと、演技合戦が一番の見所です。アンサンブルの良さが下衆っぷりを愛でさせ、高貴な方々も、下々の者と変わらぬ愛憎や哀歓をお持ちなのねと、こちらも野次馬と化して、面白く観てしまいます。
中でも素敵だったのは、ワイズ。凛々しく圧巻のエレガントなダンディズムが炸裂。しかし貫禄たっぷりに、小娘アヴィゲイルを制したのも束の間、彼女がのし上ってくると、サラにも女の悋気が覗くのです。美しい自分の顔の傷に、一瞥もくれなかったサラなのに、それが命取りになりました。演じるワイズは、良い女優さんだとは思っていましたが、今回は見惚れる程素敵でね、女王の気持ちがすごくわかります(笑)。
ラスト、女王の威厳を見せ付けるアン。その見せ付け方の安さが切ない。アヴィゲイルは、踏んづけたウサギと自分が同じだと、わかったでしょうね。戦い済んで日が暮れて、誰も幸せにはならなかったと言うお話し。人生の教訓は、各自観る人によって違うかも。私の教訓は、欲は程ほどに、です。ランティモスの作品では、すごく解り易い作品です。
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