ケイケイの映画日記
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素晴らしい!前作も好評で、見逃したのを悔やんでいました。今回はヒュー・グラントが悪役で出ると言うので、字幕版がイブニングだけになる前に、勇んで観てきました。モフモフ熊の、可愛いファミリー映画の皮を被った、秀逸な社会派作品。いやホントです。監督はポール・キング。
ペルーの山奥から出てきた、善良で紳士的なクマのパディントン(声ベン・ウィショー)。ブラウンさん(ヒュー・ボネル)のおうちに迎え入れられ、たくさんのお友達にも恵まれて、幸せな日々を送っています。育ての親のルーシーおばさん(声・イメルダ・スタウントン)の100歳の誕生日が近づき、飛び出す絵本をプレゼントしようと思いつきます。しかし世界で一つしかないその本は、とても高価なのです。働いてお金を貯めて、プレゼントしようと、仕事に励むパディントン。しかしある日、その本が盗まれ、警官の勘違いから、パディントンに濡れ衣がかけられ、彼は刑務所に送られてしまいます。
とにかく全編ファンシーで夢のあるシーンが盛りだくさん!ず〜とニコニコして観てしまいます。飛び出す絵本に入り込むシーン、移動遊園地のクラシックでポップな様子、刑務所の中だってファンシー!。とある場面の気球なんか、思わず手を叩いて喜んじゃった。そのファンシーな中に、人が生きる上で大切な教訓が、いっぱい詰まっています。
誠実・親切・正直・素直。そして可愛い!どんな賛辞を並べても足りないくらいのパディントン。あの目に見つめられたら、何でもしちゃうわよ。刑務所で刑務官に、「僕、寝るときは、いつも奥様(ブラウン夫人、サリー・ホーキンス)に絵本を読んで貰うのですが・・・」との言葉に、ブラウン夫妻は、もう一人子供がいれば良かったなと、思っていたんじゃないかな?と推測。そんな時、やってきたのがパディントンなのかと思いました。タイミングが合わず、そのまんまと言うのは、良くある話しで、うちは強引に生まれてきた(笑)三男のお陰で、家が楽しくなりました。なので、予定外の妊娠は、私は産む事をお薦めしたいな。
その人柄の良さで、街中を明るく照らしていたパディントンは、刑務所でも如何なくその力を発揮。みんなの嫌われ者なのに、腕っ節の強さだけで、囚人たちの上に君臨していたナックルズ(ブレンダン・グリースン)を、ルーシーおばさん直伝のママーレードの美味しさで懐柔。ナックルズは教わったママレードの出来が心配で、「どうせ俺は人に認められたり、感謝されたりは出来ないんだ!」と、癇癪を起こす姿を見て、ハッとします。自己評価が低く、自尊心が育たない環境だったのでしょう。人に勝るのは腕力だけ。ナックルズは、愛されるより恐れられる事を選んだのだと思うと、とても哀しい。
で、結果はナックルズの取り越し苦労で、食事を美味しく楽しく食べる工夫は、刑務所全体に幸せをもたらします。これは、どんな場所でも真理だと思う。
親戚にして同居人のバードさん(ジュリー・ウォルターズ)、新聞作りに励むジュディ(マデリーン・ハリス)、隠れSLオタクのジョナサン(サミュエル・ジョスリン)、そしてブラウン夫妻が一丸となって、パディントンを救わんとする場面は、ちょっとしたスペクタクルで、見応え充分。皆が皆、自分の持てる力を発揮すれば、それは百人力になるんですね。
ブラウンさんは、落ち目の俳優ブキャナン(ヒュー・グラント)は、自分の会社のプラチナ会員なので、悪いことは絶対しないと言う。そして刑務所の人々に、パディントンがお世話になってと、挨拶する自分の妻が気に入らない。犯罪者なんか信用出来ないと言います。この固定観念や頭の硬さは、社会の枠組みの中で生きる事が多い、男性に有りがちな思考を表していると思いました。
でもブラウンさんが偉いのは、自分の考えが間違っていたら、きちんと軌道修正できる事。パディントンが熊だと言うだけで、危険視し排除しようとする隣人のカリーさん(ピーター・キャパルディ)に、「あなたはそうやって、思い込みの偏見だけで、パディントンを糾弾するが、パディントンは、人の良い所を見つけて、付き合おうとする。だから彼は人に愛されるんだ」と、啖呵を切ります。この言葉は、コミュニケーション全般、人種差別や移民問題にも幅広く適用されるべき言葉です。
おぉ、書くのを忘れるところでした、愛しのヒューは今回悪役ですが、憎めないところは、いつも通り。落ち目の俳優と言うことで、若作りもなく、コミカルで楽しく演じています。女性じゃなくて、相手役はクマだって大丈夫(笑)。こんな役も引き受けてくれるなら、息の長い俳優生活を送ってもらえそうで安心しました。最後にヒューのミュージカルシーンもあります!
ずっと笑顔、時々涙と、気分がずっと高揚し、観た後は爽快な気分になります。ファミリー映画のカテゴリーは難しく、大人と子供が楽しめる実写映画は本当に貴重です。何で春休み公開じゃないの?と、少し怨めしくも思いますが、寒さを堪えて映画館に向かう価値は充分の作品。全ての映画好きにお薦めの作品です。
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