ケイケイの映画日記
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2016年05月15日(日) 「ヘイル・シーザー!」

わ〜、私これすごく好き!往年の映画を思い起こさせる撮影風景がわんさか出てきて、さながらオマージュのオンパレード。映画作りにまつわる苦労話・裏話があれこれ出てきて、だいたいは既存の話しなんですが、一本通して描かれると、こちらもむくむく映画への思いが充満してきます。最近腰痛に悩まされて、昨日も湿布はりはり劇場に向かった私ですが、鑑賞後はスキップして帰りたくなるくらい、楽しかったです。監督はコーエン兄弟。

1950年代のハリウッド。エディ(ジョシュ・ブローリン)は、どんなトラブルにも対応する仕事請負人。仕事は全く選ばず、夜討ち朝駆けで仕事をこなしています。そんな彼の手腕を見込まれ、ロッキード社からヘッドハンティングを持ちかけられ、心揺らぐ今日この頃のエディに、またも難事件が。撮影中の「ヘイル、シーザー」の主演俳優ベアード(ジョージ・クルーニー)が、突然誘拐されます。

もうエディの毎日が大変で可哀想で。人気女優の妊娠隠しから、撮影の延滞、監督の不満の聞き役、宗教物を作る時の政治的配慮と、何でもござれ。その辺のブラック企業なんか、鼻で笑えるくらいの物凄い忙しさ。なので神父さんに懺悔の時間は午前四時(笑)。そしてエディが仕事を捌けるようアシストする秘書さんの、超有能っぷりが光る。

当然家庭なんかほっぱらかしで、可愛くて良妻賢母の妻(あれ、アリソン・ピルだよね?)に任せっぱなし。「転職の話しがあるんだ。もっと時間にはゆとりがある。どう思う?」と、妻に問えば「家には居て欲しいわ。でもハニー、あなたが決めていいのよ」と、夫に全幅の信頼を置く、泣かせる台詞が返ってきます。しかしこの愛ある妻も台詞に、別の意味で泣けてくるエディ。本当はね、妻に「絶対転職して!」と言って欲しかったのよ。それがなきゃ、どんなに好条件でも、今のストレスフルだけど、遣り甲斐のある仕事を辞められないのです。ロッキードのスカウトマンには、「映画なんか、は〜ん。うちの社はもっと社会的に格上だよ〜ん」なーんて言われるのも小憎らしいし。もうこの辺りで、私が映画好きとしてエディに感謝して、彼が物凄く好きになっていく。

豪華絢爛な配役陣が、それぞれ当時の撮影風景とその裏模様を見せてくれます。私の産まれる前なんですが、それらは私が幼い時分、洋画のテレビ放映華やかなりし頃の作品群を連想させて、もう懐かしくって。キリストを扱う史劇の超大作、MGMのミュージカル、西部劇等々。スカーレット・ヨハンソンは、エスター・ウィリアムズですね。エスターは元水泳選手で、水の中でも常に陸と同じ笑顔を見せると事で有名だったそうですが、スカヨハも水中でずっと笑顔のまんま。あれ本当に頑張ったのかしら?一糸乱れぬシンクロも美しく、見応えあり。スカヨハのビッチさにも笑えます。

チャニング・テイタムの水平さんたちのタップダンスも楽しくて上手かった!ダンサーばかりではなく、添え物のような太っちょのマスター役まで、きちんと振付してあって、アステア×ロジャース型を選ばず、このような群舞形式にしたのは、それを観客に知らせる意図があったのでしょう。マスターのちょっとしたセリフも、後であー、そーゆーことぉ〜とニヤニヤします。

ベアード主演のスペクタクルは、後ろにロールスクリーンに絵が描いてあったり、セットも張りぼてで、もう懐かしくて(笑)。今観ればチープ感満載なのに、今観ても大作感満タン。やっぱりCGじゃないからだと思う。人海戦術&美術は、無駄じゃないのよね。

西部劇の新星ボビー(オールデン・エアエンライク)は、アクロバチックな見事なアクションを魅せるも、セリフはほとんどなし。次の作品はゴージャスなロマンスもののようですが、大根でイモ兄ちゃんのボビーは、監督(レイフ・ファインズ)を大いに泣かせます。ここのやり取りは爆笑もので、すっごく笑いました。これはロマンスの超大作を撮っているようで、シットコム風コメディを狙っているのかな?

しかしこのイモ兄ちゃんは、感謝の心を忘れない善意の好人物でした。他の悪たれスターたちとは違うのは何故か?ボビーは映画の裏方出身で、下積み経験もありました。この作品は、当時のハリウッドの脚本家たちと赤狩りを絡めて背景にしていますが、本当に言いたいのは、映画は俳優・監督・脚本家だけではなく、その他諸々、美術や撮影や記録や編集など、裏方全ての人間(含むエディみたいな人)の協力なしでは、作れないのだと、強く感じました。

華やかな表舞台と、誰にも言えない裏舞台をこれでもかと描きながら、根底にあるのは、裏方や脇役への感謝の気持ちです。それをあちこちに、散りばめています。この気持ちを最後の方で、エディに代弁させていました。これは監督であり脚本家であるコーエン兄弟の、「その他大勢の人たち」への、プレゼントじゃないでしょうか?だってベテラン編集者(フランシス・マクドーマンド)が、命がけ(映画を観ればわかります)で編集した作品の中のボビーは、都会的で洗練され、キザな笑顔を見せていました。これぞ編集のマジック!

出演者は何でみんなこんなに楽しそうなの?というくらい、ノリノリで演じています。クルーニーは段々タイロン・パワーに見えてくるし、エディの役じゃなくて、よく頭の軽いベアードを引き受けたなと、彼の事好きになりました。ブローリンは、先に観た「ボーダーライン(感想未)」でも、憎たらしくて大変良かったのですが、今回は映画好きなら、ハハー、エディ様!と平伏したくなるような役を、猛然とタフで精力的で、哀愁まで感じさせちゃう好演です。

他にはテイタムもスカヨハもレイフも、みんなみんなに良かったですが、私イチオシはオールデン・エアエンライク。拾い物です。出演作を見たら、結構観ているのに記憶にござらん。でもこれから出てきますよ。覚えて損のない名前です(覚えにくいのが珠に傷)。

そうそう、劇中語られるベアードの大スキャンダルですが、どんな秘密かと思ったら、なーんだ、そんな事〜でした。そんなのアラン・ドロンでもやってるじゃん(大ネタバレ)。別段悪い事だと思いませんが、そう思うのは私だけ?

二時間の間に、50年代のハリウッドの表裏がお勉強でき、かつ溢れる映画愛にニコニコする作品。往年のハリウッドの名作が、とっても観たくなります


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