ケイケイの映画日記
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2015年03月29日(日) 「ハニートラップ 大統領になり損ねた男」




ヘップバーンにモンロー、日本じゃ八千草薫に吉永小百合と、死して老いて尚映画ファンを魅了する女優さんは数々います。そういう意味での私のアイドルは、小学生の時からずっとジャクリーン・ビセット!本当にずっとずっと憧れの人です。実際の事件を元にしたフィクションで、「未体験ゾーンの映画たち2015」で上映されて、めでたく「ドミノ」以来10年ぶりでスクリーンでビセットに再会出来ました。それに感動してしまって、内容はそんなに面白くなかったけど、大満足の作品(笑)。監督はアベル・フェラーラ。う〜ん、フェラーラじゃなかったら、もうちょっと面白く出来たかな?

次期フランス大統領候補と目される大物政治家デヴロー(ジェラール・ドパリュドゥー)。しかし彼は無類の女好きで、アメリカ滞在中のホテルで、ハウスキーピングの女性にまで無理やり手を出し、訴えられてしまいます。夫が大統領になるのだけが夢の妻シモーヌ(ジャクリーン・ビセット)は、すぐさまアメリカに飛び、デヴロー釈放に向けて動き出します。

2012年、当時国際通貨基金(IMF)専務理事で、次期フランス大統領候補として有力だったドミニク・ストロス=カーンが、滞在中のニューヨークのホテルで実際にハウスキーピングの女性を相手に強姦未遂事件を起こして、起訴された事件を元に、「あくまでフィクション」(と、冒頭字幕で出てくる)で創作した映画。でも制作国アメリカでは未公開、フランスでは有料のインターネット配信だけです。もしかしてカーンが公開出来ないように、裏で手を回したとか(笑)。だってカンヌ映画祭では、特別上映されたらしいしなぁ。

デヴローが空港で捕まるまで、ただの女好きを超えた絶倫ぶりが、酒池肉林的に描かれます。高級娼婦たちは皆モデルばりのスタイル抜群の美女ばかりで、ジュスト・ジャカンの「マダム・クロード」の世界。ぼかし付きのそのものずばりのシーンもたくさんありますが、もぅ〜ドパルドューが太り過ぎちゃって(笑)。彼の全裸なんか出てきた日にゃ、エロスも吹っ飛ばす物凄さ。脂ぎったおじさんならまだ生々しいですが、あれくらい太ってしまったら、例えが適切がどうかわかりませんが、獣姦を観ている気分です。まっ、デヴローはその後「獣(けだもの)」呼ばわりされるんですから、適役だったのかも?

空港での逮捕から妻がフランスから来るまで、警察の様子が描かれます。のどかと言うか何と言うか。テンポが悪くて私はあんまり面白くなかったなぁ。またドパルドューの全裸が出て来るし(笑)。本当にね、目に悪いですよ。太っているのが悪いと言うのじゃなくて、そういう人の全裸を映すのが悪趣味って事で。丁寧に撮っているようで、被害者の黒人女性に聞き取りするのが、男性の刑事だけだったり。日本じゃ女性警官じゃないかな?アメリカもそうだとしたら、演出の詰めが甘い。

対して酒池肉林、強姦未遂を時間をかけて描いたのは良かったです。多分病気なのですね、セックス依存症。本物のカーンは知りませんが、デヴローはそう感じます。台詞でもそう言ってますし。その理由を自分で分析していて、夫を大統領にして、自分がファーストレディーになるのが人生の夢の妻のせいで、そのプレッシャーから自分はセックス依存症になったのだとか。でもね、前妻との間の娘と婚約者を前に、「もうやったのか?」「娘のセックスはどうか?」と婚約者に尋ね、娘も娘で、「もう〜、パパったら止めて〜」とニタニタしている様子は、元々下ユルの血筋じゃないかと思うんですけどね(笑)。

これで大統領選出馬は水の泡となったと、法外な保釈金(日本円にして一億円くらい?)を払って夫を釈放させた妻は、夫を詰る詰る。夫もお前がプレッシャーを与えたからだと応戦。この夫婦喧嘩シーンが何度かあり、ここは面白かったです。妻はこれまで何度も夫の窮地を救っており、それもこれも夫を大統領にしたいため。大財閥出身の妻は、どうも戦争前後で家系の名誉に傷がついたようで、それを払拭したいがため、デヴローと結婚して大統領にしたかったようです。打算的ですが、夫に対して、妻ならではの愛憎をぶつける様子に、私は共感しました。

途中で何やらセックスや権力について、哲学的なデヴローの自問自答的独白がありますが、全部忘れちゃった(笑)。私がバカなのか、元々空虚なもんなのか、多分その両方なんでしょう。対する妻の「愛の反対側には何があると思う?憎しみではなく無関心なのよ」には、激しく同意。憎んでいる間は、まだ愛しているのよ。「あなたは私に感謝している?」も、うんうんと肯く私。何度もお為ごかしの感謝はしていたけど、妻の鋭い視線から見ると、反論なんかしちゃって、全然反省してないもん。妻の願いの精神科医の治療にも消極的だしね。自分でセックス依存症と言うので、病識があるのかと思っていたら、全然ないわけ。だったら、軽々しく依存症だと叫ぶのは、不遜ってもんですよ。

あの訳のわからん独白も、妻の一刀両断を際立たせるためのもんだったんでしょう。ラストは、夫婦とも「呪縛」から解放される予感を映していました。

名優ドパルドューは絶対痩せるべき。あのままだと生命の危機ですよ。演技がどうのこうの言う前に観客がそこに思考が行ってしまうのは、俳優として如何なもんかと。もちろん演技は悪くはなかったです。

で、ビセットです。本物の「元」妻(映画と同じでこの事件の後離婚)アンヌ・サンクレールがショートカットなのを受けて、多分ウィッグ使用でのヘアスタイルは、若々しくとても似合っていて、「ドミノ」の時より若返ったくらい。相変わらずスタイル良くて、少し膝の見えるタイトスカート姿が素敵です。猛女っぽく演じていないので、返って妻の嘆きが手に取るように伝わってきました。最初この役は、イザベル・アジャー二にオファーがあり、断ったアジャ-二に代わりビセットの期用とか。夫婦役としての相性は、ビセットの方が良かった気がします。




一般的に記憶に残るビセットの容姿は、こんな感じかな?本当に綺麗ですよね。知的でエレガンス、そして暖かみのある美貌であるのが彼女の魅力です。もっとガツガツ仕事をすれば、現在のシャーロット・ランプリング的な立ち位置も可能かと思いますが、ああいう凄みと言うか怖さがないから、ダメかな?(笑)。今も昔も、そういうおっとりとしたところが、大好きです。若い時分はバカスカ脱いで、何でこんな作品に出てるんだろう?と、謎の作品選びもありましたが、それでもノーブルな印象が変わらないのは、御本人の人柄が滲んでいるからだと思います。ちょっと毒のある可愛いお婆ちゃん役は、現在シャーリー・マクレーンの独壇場ですが、ビセットが代われないんもんかしら?これも毒が無いからダメかも?(笑)。恋する彼女を、もう一度観たいな.


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