ケイケイの映画日記
目次過去未来


2015年01月31日(土) 「6才のボクが、大人になるまで」




延ばし延ばしになっていたのを、やっと観ました。12年間の家族の変遷を、同じキャストで描くと言う実験的で画期的な作品。今年のオスカーの作品賞の有力候補作と言う事で、ロングラン上映中となったのでしょう。お蔭で見逃さずに済み、本当に良かった!監督はリチャード・リンクレイター。

テキサスの片田舎に住む6歳の少年メイソン(エラー・コルトレーン)。母のオリヴィア(パトリシア・アークエット)は風来坊のような父メイソンSr(イーサン・ホーク)と離婚。姉のサマンサ(ローレライ・リンクレイター)との三人暮らしですが、母はキャリアアップのため大学への入学を決意。実母に手伝って貰うため、ヒューストンに引っ越します。母の新しい恋、継父、メイソンの恋や姉弟の進学、そして父との交流など、一家の12年が描かれます。

私は長い映画が大嫌いで、この作品も三時間足らずなので、些か怯んでいたのですが、これがあっと言う間。何年後とかメイソン○○才など挿入されるのかと予想は、いらぬ心配でした。子供たちの成長していく姿が、如実に時の流れを表しています。

母に連れられ、あの町この町と転々とし、中々安住の地が決まらぬ子供たち。友人との出会いと別れを繰り返し、時には怒りを爆発させるものの、我慢して一生懸命に母に付いていく姉弟。その健気さに胸がいっぱいになる。その間に数々の恋をするオリヴィアは、一見子供を振り回しているようですが、彼女の心の底では、いつも「子供たちが一番大事」の気持ちがあるのが、画面から伝わってきます。観客がわかるくらいですもん、子供たちにもその自負はあったはず。

オリヴィアの恋は女を優先させたのではありません。女性として母親として、両方の豊かさを目指しているはずが、どうも生来のダメンズ好きで男を見る目がない。むしろ彼女の選択は、母親を優先させた結果だと感じました。男は捨てても子供は捨てない。男とダメになったから子供を思い出す母親とは、根本的に違うのです。

それが証拠に、彼女は大学で教鞭まで取るようになる。それは三人の生活の経済的安定のためのはず。夫がいても大変な事ですよ。出来ちゃった結婚して、一向に大人になってくれない夫に見切りをつけ、逞しいシングルマザーとなり、女の哀歓に満ちた寄り道をしながら、子供二人を懸命に育てあげたオリヴィア。立派な母親の、女の人生ではないですか。同じ母親として、私は彼女を褒めてあげたい。

そして別れても子供を忘れないのは、父も同じ。子供二人との交流を欠かさず、見守ってくれる実の父に、家庭が不安定な中、息抜きと言う形で、姉弟はどんなにか支えられたはず。それは二人が大人になってわかる事だと思います。そして子供を忘れなかった事が、父にも人としてのプライドを残したはず。それが再婚して、また子供を作ると言う事に繋がったんじゃないかなぁ。

メイソンが18歳になった時、父は「今の自分は腑抜けだ。お前のママが望んでいたような」と、自嘲気味に息子に語ります。果たせぬ夢をあきらめ、自分に折り合いを付けて大人になるには、同じ年のオリヴィアより、実に十数年かかったのでしょうね。言外にオリヴィアとの復縁を望み、果たせなかった後悔が滲みます。

女性はよく男性より成長が早いと言われます。私の実感も三倍速かな?母親となると更に加速するのは、それは女性には子供を産む適齢期があるからじゃないかと、メイソンの両親を観て思いました。「今から子育てね。大変だわ」とかつての夫に語る元妻は、作品冒頭の愛らしさは影を潜め、立派な熟年女性の貫録を匂わすのに対して、元夫の方は容姿はさほど変わらず、むしろ渋さを身に付け男を上げています。男性は40代でも50代でも父親になるのが可能なに対して、女性のタイムリミットはほぼ40まで。本能的に女性は成長を即さないと、子育てに支障をきたすのを、知っているのかもしれません。

家庭の変遷の背景に、イラク戦争、オバマ政権誕生、銃社会に対する都会と地方の感覚の違い、アメリカでは普通の子供を連れての再婚の様子など、アメリカのあらゆる断面も上手く織り込んでいて、それも時間の変遷を伝える気の利いた小道具となっています。

「あなたたちのお母さんの言う事は正しいから、言う事を聞きなさい」とは、かつてオリヴィアの言葉に人生のヒントを貰ったという男性からの言葉。その言葉に涙ぐむオリヴィア。母親と言うのは、これほど子供に愛されるのに、人生観や道導を示すとき、家族から肯定されることは少ないのですね。例え夫が「お母さんの言う事を聞きなさい」と言っても、それには「煩いから」的なニュアンスも含む場合が多しです。私たちは母親としてだけではなく、人としての尊重や肯定も望んでいるのです。

メイソン旅立ちの時、「こんなに早く終わるなんて思わなかった」と落涙するオリヴィアに、思わず私も貰い泣き。そうなのですよ。いつゴールが見えるのかと、ため息ついた日もある子育てが、終わってみれば、あっという間だったと言う感情は、どの母親にも共有するもの。だから私は若いお母さんには、今は子供だけを観て、子育てを楽しんで欲しいと思う。女の人生は子育てが終わってからも、たっぷりあるのですよ。

自立心を持った子供に育ったのも、母の寄り道のお蔭かな?(笑)。子供には親の短所を切り捨て、長所をきちんと見抜く力を持って欲しいな。そして別れた夫婦も、子供の両親だと言う事は忘れないで欲しい。実験的な作品であっても、内容は普遍的で国境もありません。オスカー発表までは上映続行でしょうから、是非劇場で観ていただければと思います。


ケイケイ |MAILHomePage