ケイケイの映画日記
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2014年12月07日(日) 「天才スピヴェット」




延び延びになっていたのを、やっと観ました。用事があったり風邪を引いたりして時間が合わず、おまけに3Dに拘ったので、やっとこ時間を捻り出したのが、仕事帰りの梅田シネリーブル4時5分。しかしこれが大正解!劇場はXpanD方式で、今までで一番綺麗に画面が飛び出しました。愛らしくユーモアいっぱいの中、前篇を貫くのは、すれ違う愛に対しての物哀しさです。監督はジャン・ピエール・ジュネ。

モンタナの片田舎に住む10歳の少年T・Sスピヴェット(カイル・キャトレット)。実は天才の彼なのですが、そのせいか家庭からも学校からも理解され難く、浮いた存在です。その上家族は双子の弟レイトンが事故死して以来、100年前のカウボーイのような父(カラム・キース・レニー)、昆虫学者のママ(ヘレナ・ボナム・カーター)、アイドルを夢見るお姉ちゃんのグレイシー(ニーアム・ウィルソン)と共に、寂寥感に包まれています。そんな時、権威ある発明賞を受賞したとの知らせがT・Sの元に届き、彼は授賞式でスピーチするため、独りワシントンに向かいます。

とにかく色彩が綺麗!3Dは最近はだいぶ改善されましたが、暗く見えるのが多いですが、今回とてもとても鮮明でした。日常を映す場面は、牧歌的なのにちょっとお洒落だし、T・Sの想像場面のファンタジーっぽさに、舞台はアメリカなのにフランスのエスプリが香ります。

モンタナからワシントンの独り旅は、子供の身の丈に併せたいっぱいの難関を、スラプスティックコメディ風に見せたり、一大冒険物語で、ハラハラと共にこちらもワクワク。そしてフランスのエスプリは、アメリカ人少年のアメリカ国内の旅なのに、異国のアメリカ人少年の如く感じるさせるので、T・Sの期待と孤独感が伝わりやすい。

この作品を観て私が一番痛感したのは、賢くて大人びた物言いする「子供らしくない」子も、中身はとても子供らしい感性と未熟さを持っていると言う事。あんまり理路整然と賢い事を言うので、中身も大人と同じようだと、錯覚するのですね。活発で素直な子供の感性と口にする「子供らしい」レイトンと「子供らしくない」T・Sは、実は中身は同じ10歳の子なのです。周囲の二人の接し方の差は、私はそこだったと思います。

大人には人生の経験値があるので、言わなくてもわかる事、伝わる事がありますが、たかだか10年の人生、そんな事わかりますまいて。レイトンの事を家族が口にしないのは、事故現場にいたT・Sを気付かっての事。T・Sに仕事を手伝ってと頼むパパの気持ちは、私には痛いほど伝わるのに、T・Sはこのまま蛇に丸のみされて死んじゃいたいと思う。そしてパパにもT・Sの心の中は伝わらない。このすれ違いの痛ましさに、思わず泣いてしまいました。だって子供が死にたい程辛いのに、それを知らないなんて、親としてそんな哀しい事がありますか?

普通に接してはいるのに、愛する人に自分は愛されてはいないと感じる物哀しさ。これは誰でも一度は経験のある感情じゃないでしょうか?T・Sがその事を乗り越える方法として選んだのが、ワシントンでスピーチする事だったのでしょう。

独り旅に出会う大人は、優しいホーボーの老人、家出少年のT・Sを捕まえようとする警官、ヒッチハイクさせてくれるトラック運転手など、皆印象深い人ばかり。短い時間で、人としての多面性を彼らから匂わせるのは、その複雑さが人を理解する糸口だと、言いたいのかと思いました。

対するジュディ・デイヴィス始めとする「権威のある方々」金の亡者ぶりや、マスコミのT・Sへの野次馬根性を描くのは、世の中への風刺だと思いました・

自分に似ている息子を観て、初めて事態を理解したママ。愛されてはいない物哀しさを託つのは彼女もいっしょ。ママはもう諦めていたのかもです。それを払拭したラストの愛しさに胸がまたいっぱいに。T・Sを救ったのは彼自身の向う見ずな行動力ですが、それは自分にも周囲にも勇気を与えたわけです。

「科学を発展させるのは、想像力だ」と言う、とある偉い学者のスピーチが出てきました。それは科学だけではないと思います。心の垢や錆を落とさないと、想像力は湧きませんよね。やっぱり幾つになっても映画を観よう!


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