ケイケイの映画日記
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2014年11月10日(月) |
「福福荘の福ちゃん」 |
森三中の大島美幸が、女性に奥手のオッサンを演じる話題の作品。どうしてそんな変わったキャスティングで?と言うのは、作品を観ればわかります。女性が男性を演じると言う外連が全く外連でなく、福ちゃんから醸し出される包容力と温もりに、とても幸せにして貰いました。監督は藤田容介。
ボロアパートに住む福ちゃんこと福田辰男(大島美幸)は、腕の良い塗装職人。真面目で人柄の良い彼を慕っている同僚はたくさん。でも女性が苦手で、未だ彼女のいない福ちゃんを心配した親友の島木(荒川良々)は、妻良美(黒川芽衣)の友人を紹介するも、上手く行かず。そんな時、福ちゃんの女性恐怖症を作った原因の同級生・千穂(水川あさみ)が、福福荘にやってきます。
大島美幸のこの笑顔、素敵でしょう?笑顔だけではなく、実に表情が豊かで感心しました。最初こそ違和感はないけど、やっぱり大島美幸だよと思っていましたが、作品が進むに連れ、彼女が福ちゃんに見えてくる。男性とか女性とか言う以前に、大島美幸=福ちゃんが、私の中で無理なく同化していきました。この感覚、もしかしてとても大事なのかも?男性である、女性であると言う前に、一人の人間としての存在や値打ちが大切なのだと感じます。
昔の過ちに気づき、福ちゃんに謝罪する千穂は、最初は喫茶店のママ(真行寺君枝)の指摘が怖くて、会いに行ったんだと思います。でも平易ながら心に沁みた福ちゃんの言葉を、写真として表現したくなったんでしょう。それぐらい彼の喜怒哀楽の表情は、素直に観る者の感情に入ってくる。「バカにしてんのか?ちきしょう!」と男泣きに泣く福ちゃんに、私も思わず貰い泣きしましたから。だから千穂は、福ちゃんの「笑顔」に拘ったんだと思います。
笑いの中、そこかしこに、誰かが誰かを大事に思う気持ちが溢れているのも、この作品を得難いものしています。少々お節介ながら、そのお節介が相手の殻を破る事に貢献している。それらが本当にさりげなく、通り過ぎてしまいそうに描かれています。
東大出の人がいくら引き籠りだったからって、職人を社会復帰の第一歩に選ぶのは、どれだけプライドを捨てて勇気がいった事か。自分を怪我させた相手の心配をするのが、どれほど美しい事か。本当はみんな、とてもとても難しい事。それを現実味を帯びて観客に届けるには、逆説的だけど、女性に男性を演じて貰うしかなかったのかもですね。宝塚は女性がエレガントでダンディな理想の男性を演じて、夢を与えますが、大島美幸は、冴えないオッサンを演じて、観客に生きる希望や勇気を与えたと思います。
中原丈雄の有名カメラマンの台詞で、「そこにある、見えないものを表現するのが、写真家にとって唯一必要な素質」みたいなセリフは、芸術全般に言えるのだと思います。観る者は心を動かされる。それが感動なんだと思います。映画だってそう。セクハラ変態親父にも花を持たせたのは、オールヌードにまでなってくれた北見敏行への、監督の贖罪でしょうか?(笑)。
福ばっかり並ぶタイトルも、観終わってみれば意味が深いなと感じます。鑑賞後はきっと、福々しく円満な気持ちで劇場を後に出来る作品。
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