ケイケイの映画日記
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2014年05月01日(木) 「友だちと歩こう」




私の大好きな「いつか読書する日」の、監督・緒方明、脚本・青木研二コンビの作品。「ある過去の行方」の時間を見に、梅田のシネ・リーブルのサイトに飛んで、偶然見つけました。ホームページのプロダクションノートを拝読して、監督の意気に感じて(何と自主映画なんだって!)興行収入に貢献すべく足を運びました。本当はとても厳しい現実を、ユーモアと懐の深さで包み込んだ作品。観て良かった!

四話のオムニパス形式で、ただご近所をぐるぐる回るだけなのに、大冒険活劇を見せられた気がするのですね。主人公は足の悪い老人富男(上田耕一)。富男は団地で一人暮らしの老人。同じ団地に住む友人国雄(高橋長英)と、連れ立って煙草を買いに行くのが日課です。歩くのが遅い二人は、道を這う虫からも抜かれる始末。そこへモラトリアム風な二人組トガシ(斎藤陽一郎)とモウリ(松尾諭)のエピソードが加わります。

日常に転がっている平凡なエピソードを、クスクス笑える仕立てにしていて、ほのぼの癒し系老人モノなのかと思っていたら、段々と人生の厳しさが顔を覗かせる構図です。

最初は「クニちゃん」「トミちゃん」と呼び合うので、二人は昔からの馴染みだと思っていました。それくらい息の合ったコンビぶりなのですが、実はお互い家も訪問した事もなく、若い頃の生業も知らない。老いて偶々出会い、足が悪いという共通項から、「友だち」になったのだとわかります。

富男は元大工、国雄は畳職人。年金は多分額の少ない国民年金。毎日ひと箱ずつタバコを買いに行く二人。あんなに足が悪けりゃ、ヘルパーさんに頼めばいいと思うでしょ?介護保険は一人で自活できない人向けのもので、この二人のように、自分で歩けてご飯を食べられて、何とか頑張って自立している老人は、要支援程度ではないかと思います。そしてヘルパーさんに頼むのも、お金が要るんですよ。二人が吸っている煙草の銘柄は、安い新生とわかば。この辺から、経済的に厳しいのがわかります。毎日ひと箱だけと言うのは、日課として、お互い言わずもがなで安否確認しているのと、生活のリズム付をしているのだと思いました。

この二人が絶品で。哀愁と加齢臭をまき散らしながらも、愛嬌たっぷり。富男は怒ってもいい場面、絶望してもいい場面でも、取りあえず何でも受け止める。そしてタバコ。まぁ一服してから考えようよ、と言うゆったりズムは、老いだけではなく、富雄の人生が様々な苦労を乗り越えてきたであろうと想像させます。人生は四面楚歌ではないと、生きてきた道程で知っているのでしょう。少々ボケてきた国雄を励ましながら傾斜を登る様子は、ちょっとしたスペクタクルです。笑ったけど(笑)。「そこのみにて光輝く」では、貧困の象徴のようだったタバコが、ここでは老人たちの生き甲斐として、描かれます。

冒頭、どうでもいいような音の話に興じるトガシとモウリ。モウリの理屈はよくわからなかったんですが、彼の過去を目の当たりにして、おぼろげながら、何が言いたいか、わかった気が。彼は感傷的に過去に対面しようとしたのに対して、元妻は自分を死んだ事にして、違う男の子を産む、今また別の男(それも冴えない)と同居中。もうガシガシ大地を踏みしめている(笑)。しかりモウリは幻想が打ち砕かれたかもですが、「死んだ」事は、「なかった」事とは、全然意味が違う。だからモウリには「死んで」貰わないと困るのよ!と言うのです。現実を生きる為に、幻想を作ったんですね。負の思い出のあばら家に何故元妻が住み続けるのか?彼女もまた、苦い想い出から逃げきれないのだと思いました。

四人が交差するカフェの店員(林摩耶)が、可愛いのに男前な性格でカッコイイ。トガシとモウリがコーヒー一杯で粘るのには無言で一撃くらわすけど、タバコを買う途中で休憩する富男には、いつもお水だけで休憩させてあげます。その富男が国雄と連れ立って、「今日はコーヒー二つ。年金が出たから奢るよ」という言葉に、じわっと胸に暖かい感情が湧きました。

そうよ、年金が出たんだもん、ちょっと贅沢してもいいよね。積極的でもなく絶望でもなく、一生懸命でもなく。でも与えられた範囲で楽しみを見つけて、友だちも見つけて。あるがままで、少し心豊かに生きている。そして取りあえず微笑み。別に孤独から友人を探していたわけじゃなかったはずの富男と国雄。それが老いて仲良くなったのは、同じ境遇だけではなく、あの素敵な微笑みに秘密があったのかも?友だちは若い時だけじゃなく、いつでも出来るもんなんだね。

トガシに送ったモウリのテープの波の音。「お前に迎えに来て欲しいんじゃないのか?}と言う富男。私もそう思う。だってモウリが言ってたもん、音は耳に聞こえなくても存在するって。もしかしたら、トガシの「友情」を試したかったのかも?

自殺未遂女性が、富男の言葉に返したのも微笑みでした。どんな雄弁にも勝りますよね。他にも楽しく面白いエピソードが、ユーモアいっぱいに描かれます。ご近所には、こんなに愛と冒険が転がっているんなら、さっそく私もお散歩しなきゃ。その時は、友だちと歩こう(笑)。


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