ケイケイの映画日記
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韓国の誇る俊英監督ポン・ジュノのハリウッド・デビュー作。エド・ハリス、ティルダ・スウィントンなどが脇を堅め、結構な大作です。出来の方は微妙でしたが、妙に力強い作品で、トンデモすれすれですが、私は結構楽しめました。今回はあらすじはパスです。
見て一週間経ってしまったので、色々粗が見えてきました。まず計画が杜撰だし、17年間あの不衛生な場所に生きる最高列車の人々が、医療にかかっていないかのような様子も変。なのに子供もいっぱいいる。という事は、あんな鮨詰めの寝台列車のようなところで、辺り気にせずセックスする野蛮な人達なんですよね?その割には、結構秩序や思慮深さも持っていて、妙な感じです。
舞台は近未来のアメリカ、なので人種の坩堝。だからアジアからはソン・ガンホと「グエムル」のコ・アソンが再び父娘で登場。しかし何故かガンちゃんは変声期のようなもんを使って、英語を喋りません。何故に韓国語で押し通す?想像ですが、喋れないなら頑張って勉強すれば?意味がわかりませんでした。
それとガンちゃんは列車のセキュリティを担当していたそうですが、その卓抜した頭脳を披露する場面はなく、ひたすら原始的な方法で扉を開けて行きます。えっ?近未来ですよね?30年くらい前の方法かと思いました。この辺は工夫以前。もっとSFチックに表現して欲しかったです。
列車内は学校や美容院、ハイソなサロンや退廃的なクラブまでありますが、どこで住んでいるのかは不明。色々不思議でした。クリス・エヴァンスに届けられる謎の手紙も、誰からなのかは、その手渡し方法で、察しがつきます。
でも!何故観ている間はぐいぐいと引っ張られたかと言うと、主演のクリス・エヴァンスのお陰です。普段の甘い二枚目ぶりはどこへやら、この髭面でお風呂にも入っていなさそうな容姿は、すごく精悍なのです。自分はリーダーの器ではないと、長老の指導者ジョン・ハートからの指名を固辞しますが、カリスマ性は充分、初めて良い俳優だと認識しました。髭はもうそっちゃったみたいで、すごーく残念。
アクションシーンは列車の中なので、制約があり難しかったと思いますが、短調になりがちなところを、工夫して頑張っていたと思います。特に印象的なのは、絶体絶命の危機を、松明をかざして抜けきったシーン。おぉ!と唸りました。他はジェイソンかターミネーターか?のボディガードにも、笑ってしまいました(失笑にあらず)。
チラチラ感想を読んで気になったのは、最後尾列車の人は、無賃乗車でお情けで乗っているので、あの人間以下の待遇でも我慢すべきと言う意見が多くて、それは違うと思いました。食べるものはプロテインだけ(それも中身はアレだし)、毎日朝か夜かもわからず労働もさせない。監獄でもまだましです。列車 をひとつの社会と見なし、秩序を振りかざすなら、無闇に抑圧するのではなく、労働の機会を与え、人間らしい生活を取り戻す基盤を作るべきです。
まぁラストに出て来たエド・ハリスを見りゃ、それは無理な人だとわかりますが。ティルダの首相(怪演です。てか、この役を断らなかった「女気」は素晴らしい)も、相当なもんだしな。これって一国の指導者がおかしいと、国は滅ぶと言う揶揄ですか?
ラスト近くのクリスの告白で、何故彼がリーダー役を固辞したのかわかり、そこは胸が痛みます。でもそれ以降十数年、最後尾で秩序が保たれた理由にしては、少し弱い気が。それよりエド・ハリスが語る人口のバランスの話しは興味深かったです。これって、戦争が起こる根源だと聞いた事があります。ハリスとハートの関係は些かショックでしたが、これも世の中には往々にしてある事ですね。
近未来の劇画チックな設定ながら(原作はフランスのコミック)、結局は「普遍的な現在」を写した作品と言う事でしょうか?着想は良かったのに、詰めが甘くて出来は良くないですが、私にはまずまずの作品でした。
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